第89話 サイクル王
「来たぞ、箱根スパイラルRCTの音速の貴公子・鹿島光一選手と帝王・眞露要選手だ!」
「ちょいちょい! 貴公子だの帝王だの、何それ?」
「おいおい、お前モグリだな、この『サイクル王』見たことないの?」
「俺知ってるよ、ニックネームが載ってるんだよな」
「そのとおりだ」
「僕にも見せてよ、ねえ」
「ほらどうぞ」
「ありがとう」
「おいおい、次来たぜ!」
「南大のアラン選手とキング・川崎選手だ」
「川崎選手はインハイ優勝、インカレ優勝と今一番注目されている選手なんだ。ついたあだ名は『キング』さ」
「なんかあだ名なんて、坂道くんのマンガみたいだね?」
「仕方ないさ、サイクル王の編集長が坂道ファン何だから、有名な話よ」
「ねえねえ、坂道くんて誰?」
「お前知らないの? もう良いわ。『サイクル王』返せ!」
「おい、また来たぞ。あれは白と青のストライプのERCだ! 桜山選手を引いてるの、高校生の早乙女選手じゃないの? スゲー」
「このパンフに書いてあるけど、鎌倉学院高等部の一年じゃん」
「あそこにチャリ部、あったっけ?」
「ねーよ」
「チャリ速いなら、うち来りゃいいのに」
「お前はアホか?」
「あいつはな、俺知ってんよ」
「何々?」
「俺も早乙女と同じ自転車クラブにいてな、あいつはめっちゃ勉強できるし、チャリ速かったし」
「それで?」
「あいつレースで追い風に乗るのが上手かったから『風の春風』と呼ばれとったんや。けど、あいつ色々あって、チャリ競技をやめてもうたんや。そんでの、高校もチャリ部のない学校に行く言うて、しかも親元離れんや。俺も聞かされて、まったく理解できへんかったんや」
「なんでだろうね」
「さあ、さっぱりや?」
「更に来たぞ、うちの桜先輩と釜ヶ崎先輩だ!」
「桜先輩、頑張って下さい!」
「釜ヶ崎キャプテン、勝ってください!」
「おう!」
と釜ヶ崎が応えた。
「うわぁ、先輩、絶対やってくれるよ」
「どうなんだ、先頭の箱根スパイラルから南大付属まで、一分くらいか?」
「距離にしてどうなんだ?」
「ええっと、仮に時速六〇キロで走っていた仮定なら、箱スパと付属は一キロメートル離されていることになるな」
「残り十五キロメートルだから、どうなるんだ?」
「時速六〇キロで走れば、箱スパはあと十五分後にゴールしちまう」
「じゃあ、十五分で十六キロメートル走るつもりなら……」
「えっと、六十四、時速六十五キロなら勝てる」
「でも、眞露選手はゴールスプリントを時速七〇キロで走るって、パンフに書いてあるぜ」
「ならこの時点で、優勝は赤点灯か?」
「三位狙いならどうなんだよ?」
「ERCとのタイムさ二〇秒くらいだったから、入れ替わる可能性はあるよ」
「すぐ後ろ見てよ、ジュニ選の関東最速の川北龍とインハイ二位の四宮祭之真選手が来てるよ」
「見た感じ、ジュニ選の川北の走りが一番キレてる感じがするよ」
「前のERCより、先ずは後ろのジュニ選が相手か?」
「鎌倉学院OBも凄いスピードでてね?」
「ちょっと待って、ホーク秋山だ。この選手もかつてインハイで優勝しているよ。しかも、乗ってるの、あれ、コルナゴV4じゃねえ?」
「俺、初めて見た!」
「これは、ゴール争い以外にも、三位入賞争いが、めちゃくちゃ熱くなりそうだ」