第9話 お世話になります川崎さん!
――鎌高前海岸――
「おはようございます!」
「おはよう、見慣れん顔だな」
ちょっと強面のおじさん登場?
「パーラー七里ヶ浜の代表できました!」
「美っちゃんとこけ?」
とこけって、どんな方言ですの?
「はい」
「今からテント上げるから、手伝ってくれんかな?」
「ええ、これですね」
「おーい、あんた達、テントあげるぞ!」
「さあ、いくべ!」
テント設営に集まった商工会の人達に混じって、春風も汗をかいた。
「兄ちゃん、なかなかどうして、細身なのに力あるね!」
「ああ、どもです」
「なんかスポーツやってるの?」
「自転車競技やってました」
Tシャツの胸のところに『磯部寿司』とプリントされた、見た感じ五十代のおじさんに声をかけられた。
「俺は磯部ってんだけど、君は?」
「早乙女と言います」
「中坊かい?」
「いや、高校生になりました」
「鎌高か?」
「はい」
「じゃあ、鎌高の自転車競技部かい?」
「そう、ですかね?」
自転車競技部って、今はなかったはずだけどね。
「一年坊か?」
「ええ」
「そういや、テント運んでくれた藤沢の運送屋の倅が、自転車好きだったな」
と言って、あたりを見渡し、トラックに乗り込もうとしていたその倅に向かい一声かけた。
「おーい! トラックの兄ちゃん!」
磯部のおっちゃんの呼びかけが聞こえたのか、
「何ですか?」
と振り返り答えた後、砂浜を歩いて近づいてきた。
「あれ、昨日の、確か、早乙女くんだった? また、どうしてここに?」
「昨日はありがとうございました」
「何? あんたら知り合いかね?」
「磯部さん、この子ですよ。さっき話した真夜中の自転車乗りは」
磯部は驚き、春風のかたに両手をかけながら、
「いやー、話は聞いとるよ。大阪から自転車だって?」
と急に笑顔になり、話しかけた。
「転倒していたところを助けていただいたんです」
と僕と磯辺さんとの会話に、運送屋の倅が割って入り、心配そうな面持ちで春風に声をかけた。
「昨日の怪我はどうだい?」
春風は、袖を少し捲り上げ、
「打ち身が少しありますが、大丈夫です」
と恥ずかしげに答えた。
「そうだ僕、お名前お聞きしてなくて」
「私かい? 私は川崎って言います」
「あんたんとこ、運送の仕事以外にも、湘南ライドのスポンサーやっとるだろ? ほれ見てごらん」
と磯部さんが、指差した先の看板に『藤沢の運送屋』って書いちゃるだろ! と教えてくれた。
「湘南ライドには、サーフィン、マラソンに自転車ロードレースがあるからね。まとめてスポンサーやってるんよ」
「ロードはいつ開催なんですか?」
「今年も五月第一週の土曜にあるよ。出たいのかい?」
「まだエントリー可能ですか?」
「チーム戦だから、個人では出れないよ」
「そうなんですね……」
残念そうな顔をした春風に、川崎が打診をかけた。
「……そう言えば、知り合いのチームで、メンバーが一人足りなくて困ってたな。良かったら声をかけてあげようか? 確かホームは江ノ島を起点にしてるチームだったから、ここから近いしね。どうだろう?」
「高校生でも大丈夫ですか?」
「それは問題なし。それに、あのチームは、例年あと一歩で表彰台を逃してるチームなんだ」
「じゃあ、僕なんかが加入したら、迷惑されるんじゃありませんか?」
「何いってんの。僕がチームを表彰台に上げますくらいな気持ちを持たないと!」
「ですね」
「早乙女くんは、ロードレースの経験はどうなの?」
「本格的なのは出たことないです。が、トラック競技ではオムニアム的なのをやってました」
「ほう、成績は?」
「関西では表彰台に上がってましたね」
「なら自信持とうや」
「そうですね。でも、ロードはチームですから別物だと思います。実際やってみてみないと」
「なら、走ってくれと頼まれたら、頑張って走るんだろ?」
「それはもちろんです」
「なら、合格だよ。早乙女くん。うまく話しとくよ。あとさ、君携帯番号を教えてもいいかな?」
「問題ないです、って言うか、よろしくお願いします」
「感心感心。スポーツマンはそうでなくちゃね。この件は任せてもらうよ」
川崎さんは早速電話をしながら、トラックに戻って行った。
「じゃあな兄ちゃん!」
と言って磯部さんも帰って行った。
なんだかんだでもう十一時半だ。
そうだ。翔子さんは波乗りに来てるのかな?
川崎 君の大阪弁は何か変だね?
春風 分かりますか?
川崎 名古屋弁にも聞こえるけど?
春風 作者がそうだからかも?
川崎 次回「鎌高女子はサーフィンが強い?」
春風 楽しみだなも!