第87話 最速の男
須雲川の橋を超えたあたりにリザルトラインがあり、距離にしてあと五キロ前後あたりであろうかと言うあたりである。
南大の平良、付属の館山は、悪天候につき路面の跳ねとスリップに気を回しながら、ブレーキの使用を極限まで抑えるためのライン取りに注意するも、予想通りにラインを辿れなければペダルを回すことになり、スピードが上がり、結果、ブレーキを多用し、制動が難しくなる。そんな駆け引きをしながら前へと走り続ける。
展開的に厳しいのは、相手の後ろにつけば、水飛沫に視界をやられるため、近距離でのライン取りが難しくなる。
それでも、選手たちは前にでる。
四つ目ヘアピンを抜けたあと、加速中の箱スパ天野を二〇メートル先に捉えた。
「勝てる!」
春風は「天野さん、あんたを抜きます」と最後の直前に入り、トップしたのギアがペダルに反応したためケイデンスを上げて行った。
リザルトサインまであと一〇〇メートルの時点で、天野に自転車一台分に迫っていた。
「早乙女くん、やるね!」
「まだだ、終わっちゃいない!」
最終ヘアピンからの立ち上がりで、天野のF7は春風のRSに遅れをとった。
「だが、それだけのこと」
「どう言う意味だ?」
「ここから先はペダルが回せるギアが、あるかないかと言うことだ」
「何?」
春風はこの時点で、十一段をすべて使い込んでいたのに対し、天野はまだ十二段を残していたのだ。
「勝負あった。ワイドレシオの勝利だな、アッハッハ」
と勝利を確信した雄叫びを、天野は挙げていた。
「まだだ!」
天野がシフターをタップするまでの瞬間に、春風はRSをF7に並べたが、ここが分岐点。
リザルトラインまで残り40メートルのここでシフトアップ。
「これで決まりだー!」
残したギアの差、天野開のワイドレシオコンポーネントの差が、勝敗を分けたのだった。
「畜生め!」
と春風はハンドルを叩いた。
速度操縦対決であるダウンヒル特別賞は、天野開に決まった。
そして着順は次のとおりだ。
❶天野開3 箱スパ
❷早乙女春風46 ERC
❸東堂満45 ERC
❹平良一路14 南大
❺館山幸人26 南大付属
山崎ICで新道から一般道国道1号に移り、アップダウンを繰り返して国道134号へ流れる。