第84話 東堂よ、恋を語る勿れ!
県道75号から箱根新道(国道1号)に乗り換え、ひたすら下ったヘアピンカーブを抜けた箱根口付にリザルトラインのあるダウンヒルバトル。
このバトルに挑むバイクコントロール自慢、或いはスピード狂の選手が、箱根ミュージアムあたりから次々と飛び出して行った。
標高790mから一気に下るコースは、路面の凹凸がところどころある上に、にわか雨が降り出し、バトルは最悪のコンディションとなった。
「さあ、若者たちよ、解き放たれよ!」
と最上阿良隆が早乙女春風と東堂満に発破をかけた。
「よし行くぞ、早乙女!」
「あいよ、東堂!」
ふたりはダウンヒルバトルに向け、チームから飛び出して行った。
「市川さん、ふたりをダウンヒルに出しちゃって良かったんですかね?」
とエース桜山が笑いながら声を上げた。
「あいつらタメで、中学時代は関東と関西で活躍していた選手だから、何かとお互いライバル視してるじゃないかな?」
「見た感じですけども、バイクの操縦性はふたりとも上手いですが、ほれ、この天気、ひと雨来そうだから、ここからの路面の荒さも含めてかなりヤバ目のバトルになりますよ」
「そうだな、怪我するなよ、ふたりとも」
遡ること一週間前
「早乙女、次のライドで俺とバトルしろ!」
隣でローラーに乗っていた東堂が、突然、挑戦状を叩きつけてきた。
「湘南ライドのこと?」
「そうだ」
「どうやってやるのさ?」
「お前、ピンと来てないな?」
「……ダウンヒルでやるのか?」
「ダウンヒルでな」
「江ノ島のレースの借りでも返すつもりなんか?」
「勘違いするな、江ノ島のあれは、ちょっとだけ、お前にな、花持たせたりなんかしようと、しただけじゃボケ!」
「あはは、確かに、そんなんやったかも知れへんかったかもな?」
「うるさいわい!」
「じゃあ、純粋なる自転車のスピード対決やな?」
「違う」
「……違うって?」
「お前、雪ちゃんと同じクラスで、仲良くし過ぎてんねん」
「はぁ? クラス同じなんやから仕方ないやん、昔からの幼なじみやし」
「それがいかんと言うこっちゃ」
「なぜ?」
「そりぁ、あれだ。俺が……」
「俺が?」
「雪ちゃんをのこと……」
「雪ちゃんのこと、めっちゃ好きやから?」
「お前、言うな! 恥ずかしいやんか、ワレ!」
東堂はやはり雪のことを引き合いに、春風へのバトルをふっかけて来たのであった。
「仲良くしたらあかんの?」
「あかん」
「話しかけられても?」
「あかん、あかん? あかんて関西弁になってるじゃん」
「挨拶もダメか?」
「まあ、挨拶くらいはしゃーないけどな。俺様が勝ったら実行してもらうかんな!」
「東堂くんは純だね」
「やめろ、そんな言い方……照れるじゃんか」
コイツは雪のことめっちゃ好きなんやな。
雪は許嫁だと言ったら、東堂くん、どうなっちゃうのかな?
許嫁か、そんなことを親同士が話していたな。




