第83話 クライム決戦
残り六〇〇メートルから、十文字と天野と堂島のラストクライムが始まった。
「十文字さん、どうしたんですか、行かないなら僕が行きますよ」
と口火を切った堂島がダンシングで飛び出した。
天野も「取らせてもらいますよ、山岳賞を!」
と言って堂島の後を追った。
「天野さんは、雫さんのお兄さんでしたよね?」
「ええ?」
「僕は、雫さんが好きでした。雫さんはお兄さんは自転車が速いって自慢していました」
「こんな時になぜそんな話を?」
「ぼくは振られました」
「……」
「だから、負けたくないんです」
「……そんな」
「だから、あなたには負けません」
なんだと!
あっ!
「ガタン」
堂島がダンシングの際に、大きく寄れて、天野に接触した。
「うわぁ」
「そこまでして勝ちたいのか!」
天野は一喝したあと、フル加速で残りに二,〇〇メートルを突っ込んだ。
しかし、天野と堂島の接触による減速を見逃すことなく、足を溜めていた十文字がスルリと抜け出しリードを広げ、そのままゴールをしてしまった。
山岳ライン到達順位
❶十文字潮5 箱スパ
❷天野寛43 ERC
❸堂島翔55 ジュニ選
❹釜ケ崎和也13 南大
❺花山一角33鎌学OB
❻志津摩玲矢23 南大付属
山岳ラインを過ぎた選手たちは、後ろから上がってきた集団に合流しながら、箱根の袋に備える。
箱根第一鳥居を集団は次の順位で通過していく。
先頭を箱根スパイラル、三〇秒遅れて南海大学、ERCが通過、更に三十五秒遅れて鎌倉学院OB、神奈川ジュニア選抜、南大付属が通過した。
「天野さん。惜しかったですね」
と春風は二着だったことを聞き、天野を讃えた。
「勝てるチャンスを逃したよ、でもこれも実力さ」
と残念な結果ではあったが、僅差の勝負であったことに、なっとくはできていたように見えた。
市川が「さあ、ここからは下りだ。そのあとは平坦だ。我々の悲願、三位入賞を勝ち取るため、頑張ってくれよ」と鼓舞した。