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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第三章 湘南ライド 激走編
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第81話 バイクの力

「おい、さとる晋助しんすけ、代われ!」

 一角は溝抜みぞぬきと佐々木に先頭を代わるよう声を掛けて、五番手からスルッと先頭まで抜け出して、ERCを牽引する春風と並走する。

「よう、覚えてるか?」

「ええ、花山さんですよね、市川先生の大先輩クライマーの」

「ほう、それは光栄だね。君ってさ、左大腿部に疲労があるだろ?」

 ギクッ、なんで分かるんですか?

「いや、なんでかな? 分かるんですわ」

 この人何者?

 足の動きがぎこちなかったり、赤くなってるのか?

 いずれにしても見抜いてますね。

「ご心配どうも」

「その足、あまり回しすぎると肉離れ起こすで!」

「忠告どうも」

「身体を労ってこそ、本物。リタイアしなさいな」

「……いや、それだけはないですよ!」

「ほう、そうか、それと、いい自転車乗ってるねぇ。V3RSじゃないの。自転車に救われたね?」

「そう見えますか?」

「まあ、いい、、やるか? 勝負を」

「えっ、どうやって?」

「そんなの決まってるじゃないか、先に南大を捉えた方が勝ちや!」

 するとエースの秋沢佳紀が「一角さん、真面目にやって下さい」とキツめに言葉をかけた。 

「おい、俺はいつでも真面目が売りだぜ」

 アシストの品川も「一角さん、言い出したら聞かないから!」と秋沢をなだめた。

 ふたりは先頭で並走を続ける。

「あのカープ曲がったら看板あるから、そこからチームを連れて直線を一気に登るんだ。登り切るとそこのアスファルトがゴールライン見たくなっていたから」

「じゃあ、行きますよ!」

「臨むところだ!」

 鎌学OBとERCの全面戦争が、今、始まった」

「いくぜ!」 

「負けませんよ!」

 まずはOBチームがワンチャン早く飛び出した。

 ERCも春風のダンシングであとを追い、一歩も引かない攻防が始まった。

 この勾配は、八段または七段でなければ、登り切るのは難しい坂で、一角は八段から七段へ繋ぐようにして坂を登っていった。

 このギア変のタイミングは、脚力次第であり、一角は力強い脚力を生かし、シフトギアのタイミングを早めた。

 少し後追いになった春風は、一角の脚質を見て、ハンデがあるとしたら自転車の力を借りる戦法であると躊躇(ためら)いなくこれを選び取った。

 一角は春風がギアを二つ上げた音に気付き「まさか!」と思わず声を挙げた。

 春風は、ほんの少し脚への負荷もかかることを承知で、2タップした。

 この勾配は、花山一角がシフトしたやり方が正解であったが、脚質勝負をあっさりと捨て、春風はギア比の勝負に出たのだ。

 クライマーはケイデンスを維持するため、クロスレシオでのシフトチェンジを無理なく行うことが必至になるが、春風はここで敢えてワイドレシオ的発想を思い起こし、RSの坂でも楽に踏み込めるコンポーネントと、登坂するのに味方となる軽量化を武器に、序盤、ギアを敢えて七段から九段に入れ中断まで引き、八段にチェンジする展開で一角に迫った。

「あと少しでゴールや!」

 とチラッと花山は振り返ると、春風がすぐ後ろまで迫っていた。

「なんちゅう小僧や! あかん、これ以上は加速できん」

「勝ちます!」

 そう叫んだ春風は、ゴール手前で並び、タイヤ一つ分引き離しにフィニッシュした。

 

「天野、でます」

 この流れで、エースクライマーの天野が山岳ラインに向けて飛び出した。

 鎌学OBからも、そのまま花山が飛び出し、春風を抜き去る瞬間に「その脚でよく保ったもんだ、あのギア使いは、この先は使わない方がいいな。今度やったらおそらく肉離れだ」と忠告をしたのだ。

「ありがとうございました」

 春風は、先行く花山に頭を下げた。

 

クロスレシオとは、変速幅が狭いギア比の構成を言う。

ワイドレシオはその逆である。

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