第75話 気合をいれろ!ERC
ピンポンパンポン!!
ここからしばらく『箱根湘南サイクルライド』というロードレース編になります。
自転車にかけた男たちの戦いであり、あまり興味のない方はスルーして下さい。
春風と東堂の真田雪をめぐるエピソード以外は恋愛色はありませんが、本編とリンクした短編ではありますので、ぜひご一読してみて下さい。
大会直前
眞露がかつて乗っていたコルナゴV3ーRSは、現在、春風の手にあり、天野寛の配慮により競技車両としてリメイクされていた。
春風はRSの感触を掴むため、大会前の土日を利用して、バイクと向き合い、乗りこなすために時間をかけてきた。
また、平日は肉体の強化を目的としたトレーニングを重ねてきたのだ。
大会を明日に控え、ERCメンバーは集中力を持ってこの一カ月を乗り切った。
5月3日大会当日
レース開始一時間前
「おはようございます」
「おはよう、早乙女くん。昨日は眠れたかな?」
「ええ、まあそれなりに眠れましたよ」
春風は江ノ島に集まった大会参加チームの中に、優勝候補の箱根スパイラルの陣営を視界に捉えていた。
「やっぱメンバー凄いな」
と最上阿良隆さんが春風のすぐ横でそう呟いた。
「あの紫ジャージの身体の大きな選手がアシストの鹿島だ。クレバーな奴で、駆け引きが上手いことで定評があるんだ」
「この間の下見で、エースを発射させたあと少しお話しできたんですが、確かに戦況を読むのが上手な方だと思いました」
「あっ、あれは眞露だ。箱スカの司令塔でエースだ。春風くんは知っているかな? 箱スバの実体を」
「いえ、知りません。教えて下さい」
「アラカワ自転車の子会社ゲルニカに所属する世界に挑むプロジェクトチームが、箱根スパイラルRCTなんだ。つまり、箱スパの選手はゲルニカの社員選手と言う訳なんだ」
「アラカワ自転車は知っていましたが、ゲルニカはらまったく知らなかったです」
「そうだよね。まあ、彼らは自転車運転職人だから、僕ら素人には厳しい相手になるよ」
続けて阿良隆は、視界に入ったチームの戦力を語り出した。
「箱スパの左隣、あの青色のジャージが南海大学だ。エースの川崎大河はインハイ、インカレと個人優勝を果たした学生界に君臨する王者なんだ」
「南大もマークしなければならないチームですよね?」
「その通り。彼らはインカレ団体優勝チームで、この大会でも箱スカと並んで優勝候補の一角と目されているんだ。中でも外国人留学生のアランは、昨年ツール・ド・フランスで入賞したチームのクライマーで、どのチームもその足を警戒しているのさ」
「なんか熱くなりますよ」
「みんな集合してくれ!」
と市川が周りにいたメンバーに号令をかけた。
「これから出陣式を始める」
なんだ、出陣式って?
「我々の目標の確認だが、これまで3位入賞を最高位として更にその上を狙ってきた。しかしながら、ここ数年は入賞すらできない結果に終わっている。今回は戦力的には入賞を狙えるチームに仕上がっていると自負している。我々の力を誇示するため、何としても入賞し、あの優勝候補の箱スパに一泡噴かせる戦いをしようではないか!」
「やるぞ!」
「倒すぞ!」
「奴らに勝つ!」
「……そうだ、我々はやれる。この大会で見せてやろうではないか、ERCの底力を! では円陣を組め、気合を入れろ!」
「ERCファイト!」
「ウォー!」
気合入るぜ!
「早乙女くん、はいボトル」
「ありがとう、桜山さん」
「鎌倉学院代表の早乙女春風、頑張るんだぞ」
「了解しました。チームのために頑張ります」
「期待してるよ」
とカオリは春風とグータッチをした。
隣にいた天野雫も「私も」とカオリの真似をして「頑張って」とグータッチをして見せた。
カオリは「給水ポイントで待ってるから」とにっこり笑い、手を振る雫を連れてサポートカーに乗り込んだ。
「さあ、行きますか」と頬を二回叩き、春風は仲間とスタートラインに向かった。