第74話 恐るべしゲノム
「あー、もしもし、わたくし鎌倉学院で七瀬リコさんの保護者になります早乙女と言いますが」
「オタクさん誰? リコの保護者は私ですが」
「何を何を、わたくしはリコさんの住む女子寮の寮長ですから、わたくしが保護者になりますから」
「あなた、いい度胸ね? まぁいいわ、でご用件は何?」
気分わる!
「リコさんが足を怪我して、完治まで三ヶ月になるため、仕事をキャンセルするようお願いするために、電話しました」
「あなた、何を藪から棒に言ってるの? そんなこと認められる訳ないでしょうが。リコはうちの商品よ。あんたに言われる筋合いはないわ」
「この、わからずやだな! 怪我してるいたいけな少女を面前に曝け出して、何が仕事だ! そう言う配慮のない大人が、この世の中をおかしくしてしまうんだ!」
「……君、何の権利があって、我々の仕事に首を突っ込むんだい?」
「……僕には、リコちゃんの生活における責任がかかっているんです。だから、怪我や悩みがあれば彼女を全力で助けてあげるし、彼女のためになら、断固闘います」
何?
この胸騒ぎ。
この寮長、超イカしてるじゃない!
漢気凄すぎ!
リコ、キュンとしちゃった!
「いいか、寮長さんよ! リコは私の娘よ! 言っとくけど保護者は私なの!」
リコちゃん? この電話って?
「マネージャーは私のママ」
「……ん? お母さん? リコちゃん、それ最初に行ってよ!」
「リコのママとパパ、怖い人だから、覚悟してね」
「おい、寮長さんよ。うちの娘に怪我させといて、ただで済むと思わないでよね。責任とってもらうからね」
「お母さん、違いますから、怪我させたんじゃなく、怪我を手当したんです」
「当たり前じゃ、おのれ。娘を傷物にしたあんたにゃ、男として責任とってもらうわよ。いいわね!」
「僕はまだ高校生で……」
「何だとこら! 未成年のくせに、中学生の娘に手だしたのか?」
「だから、違いますから」
「あたいが手塩に育てたまだ中学生の娘と何したなんて、絶対許さへん!」
「僕はまだ、女の子と何したことはありませんから、信じてください」
「それ、ほんまか? じゃあキスくらいはしたんか?」
「……すみません。しました」
「ほらご覧、うちの娘にキスしておいて、何はしてないなんて、男のいい訳通ると思っとるんか!」
あゝどうしたら誤解が解けるのか? まったく分からんようになってきた。
キスはリコちゃんじゃないし。
するとリコは電話口で
「ねえ、ママ。あたしこの早乙女さんのお嫁さんになるよ」
と声を出した。
な、何を言うんだ、この子は?
話の通じなさ、母親譲りだ!
「そうか、そうか、リコは早乙女くんともう一線を超えてしまったのね。ママはあなたの幸せのために、早乙女くんを婿さんとして迎える心の準備をしなきゃね」
「あの……どうしたら、そんなうつつ話になるんですか? 分かりますよね? 僕とリコは何もしていません。だから、婿にはなりません」
「まあ、分かったわよ。もう娘をリコと呼び捨てる関係なのね、あなたたち」
とんでもない親子だ!
話が噛み合わないよ。
「違いますよ、そんな関係じゃありませんから、誤解をしないでください」
「ガシャ」
春風はもうへとへと。
リコも母親も、遺伝子がゲノムレベルで同じだ。 リコちゃん怖し。
「ねえ、早乙女さま、あたしと将来を一緒に歩みませんか?」
「リコちゃんもちょっと待て。落ち着いて。僕には今好きな子がいて、だから……」
「早乙女さん。あなた、忘れたとは言わせないわ。あなたは誰にも言わないからと、あたしの胸の感触を楽しみ、その卑猥な言葉で私をむさぼったではないか」
ちょっと、ちょっと、何言ってんのさ。
何で胸の感触を……あっ、おんぶか。
ものも言いようだが、これはしてやられた感満載だ。
「ねえ、リコちゃん、さっきの胸の話だけど、感触を楽しめるほどのものはなかったよね?」
むむむ、
「それはレディに向かっていう言葉ですか? これから大きくなるんですから、第一、胸のこと言わない約束なのに酷い!」
ああ、やってらんない、踏んだり蹴ったりな一日の始まりだ……。