第69話 詩織の嫉妬?
「春風くんも、ほら、昨日発熱して寝込んでいたけれど、今日は私のために病院へ運んでくれたり、氷枕持って来てくれたり、本当は申し訳ないと思っていたの。彼のそう言うところに惹かれてしまったのかもね?」
と紗矢香は視線を外しながら呟いた。
詩織は、兄の魅力をこの短期間で正確に捉えていた紗矢香に、ちょっぴり嫉妬している自分に気づいてしまった。
この気持ち、なんなの?
兄に惹かれていた天音さんを見ていた時に得られた安心感。
あの安心感が、紗矢香さんには感じられないのはなぜ?
……待って、安心感の正体は、本当の兄の魅力を知っていないから、兄を取られないだろうと思う安心感? だったらそうだ、紗矢香さんに、安心感が持てないことの理由が立つわ。
あの時の感情も、この理由で成り立ってしまうわ。
また、姉兄ごっこしている兄と翔子さんが、異母ではあるが妹の私がいる前でふざけていることに対して、私が呆れることなく、安心感をもったことも。
でも、私は兄の恋人になりたいわけではないわ。ただ、私だけの兄を、誰かに取られるんじゃないかって内心ハラハラしちゃうのは、私が兄をお気に入りのアイテムのように思っているからなのか?
はたまた、私が兄以外の男の子を知らないからなのか?
仮に、紗矢香さんに兄がなんらかの気持ちを寄せていても、私がこれを引き裂くことはないわ。
だって、兄のことが大好きって言うのは、妹なんだから未来永劫に許される思いだし。
あっ、忘れていたけど、兄には雪さんがいるをじゃないの。
許婚の真田雪さんが。
「詩織ちゃん? 大丈夫? ボーっとしていたみたいだから」
私としたことが、兄の代わりにサポートしに来たはずだったにね。
「ぼんやりしてすみません。では、紗矢香さん、何か飲み物なんかを持って来ますが、何がよろしいですか?」
「じゃあ、一階自販機の炭酸オレンジとミネラルウォーターをお願いできるかしら?」
「食べ物は?」
「そうね……」
「お粥はどうですか? 私のお粥、食べてみませんか?」
「いいのかしら?」
「任せてください。あと自販機のお金は兄に請求しますから」
と言い残し、詩織は部屋を出た。
「ふーっ」
緊張した。
初めて見たけど、天音さんと同様、綺麗な人だった。
可愛い感じの雪さんや翔子さんも含め、兄さんの周りには素敵な女性がたくさんいて羨ましい。
私も、兄を通じて仲良くしてもらえると嬉しいな。
「さあ、ミッション開始だわ」