第65話 翔子の采配
寮内はパニック
現在、午後三時四十分、女子寮にいち早く帰って来た寮生が数人寮内を探し回っているようだ。
「みんな、集まって。病気で寝ているはずの寮長が見つからないの」
と天音は落ち着かない様子で、寮にいた学年長らを三階の天音の部屋に集めて、行方不明の寮長を捜索するよう指示を行った。
集まったのは高二生朝倉美穂、中三生佐伯セレナ、それに総長の華宮麗香であった。
「いい? これは極秘に進めて欲しい探索なの。だから他の寮生には気づかれぬよう用心して下さい」
天音にはちょっとした喜べぬ事態も想定されていた。それ故に、その想定を考慮しての捜索であった。
天音が喜べぬ事態として想定したのは、神からのギフトである春風と、大嫌いにな紗矢香が一緒にいるという現場が押さえられることであった。
春風が寮長室にいないこと、食堂には朝食が手付かずで残っていたこと、管理室が散らかっていたことから、春風の身に危険が起こったと見るのが妥当であり、その危険が紗矢香だと天音は予感していたのだ。
「美穂には、同級生の紗矢香が部屋にいるか、それともいないかをチェックしてきて欲しいの。いい? いるかいないかよ。いなければ、出校しているかどうかも確認して欲しいな」
「はい、チェックから始めます」
「セレナはパーラーにいる料理担当の加藤さんに朝の様子を聞いてきてもらえるかしら?」
「わかりました」
その傍で麗香は気乗りしない感じでこう言った。
「天音のギフトがとんだお門違いのクソみたいなすけこまし野郎なら、遠慮なしに追い出しちゃうからね、文句はなしよ」
「なんて君は口の悪い乙女なの? まあ、いいわ。そこまで言うんだから、麗香は何してくれるのかしら?」
麗香は、にやっと笑いこう話した。
「防犯カメラよ、映像は事実しか語らないからね」
「あゝそれです!」
天音は麗香に、防犯ビデオから春風の動きを調べるよう調べるようにと託した。
そして紗矢香の部屋のドアに耳をあてて聞き取れた情報では、僕が紗矢香さんの部屋にいるのかどうかを確かめる行動にでるというもの。
「ドンドン!」
美穂は紗矢香の部屋の前に立ち、
「紗矢香さん? 部屋にいる?」
と聞きながら、
「ガチャガチャ」
とドアノブを回した。
「鍵がかかってる? いないのかしら? なら、携帯かけちゃうよ!」
ドアに張り付いていた春風は、慌てながらも忍足で、電話着信がならないよう、視界に入ったスマホを、紗矢香に掛けた布団の中に押し込んだ。
「……あれ? 鳴らない?」と再度取り出したスマホを見ると、電源がオフになっていた。
「あゝ、病院行った時、電源落としたままだった」
まだまだ運は、僕に傾いているね。
着信音やバイブは何だかんだで勘付かれちゃうからね。
「紗矢香さん、可愛い顔してスヤスヤ寝てるね」
春風は、寮内で寮長探しが始まっていることを察知し、策を考えはじめた。
一方、学校に復帰した葉山翔子は寮生の北山萌に春風が病欠をしていると聞き、春風を驚かせようと連絡を入れることなく萌に案内をお願いして女子寮にやって来ていた。
そして玄関先でセレナとすれ違い様に、萌はセレナから「ちょっと寮長の件でややこしいことになっています」と聞き受け、萌は翔子と顔を見合わせた。
「ややこしい?」
翔子は萌に、寮内の動きを探るよう指示して寮内に入らせた。
そして翔子は、春風に返事を至急返すようメッセージを送った。
しばらくして春風からのメッセージが届いた。
——姉さん、おかえり。お疲れ様。
——春風、今どこなの? 女子寮であなたのことがややこしいことになってるわよ。
——寮に来てるの?
——驚かせたくて黙って来たんだけど、中で人が歩き回ってるのが見えるわ。
——そうなんだね。
——早く自首しなさい。
——それはできない。
——なぜ?
——今、ある寮生の部屋の中に潜んでるんだよ。
——春風、あなたいつからそんなスケベな子になったの? 女の子の敵じゃない、自首しなさい!
—— それはダメ。部屋には彼女もいるから、巻き込んでしまうから。
——あなた、女の子に手をだしてないわよね?
——まさか、そんなんじゃなくて。
——じゃあ、説明しなさい!
もおー、この緊急時に。
——病気の寮生見舞ったつもりが、周りが騒ぎ立てて、出れなくなったんだ。だから、僕のアリバイを作って欲しいんだ。
——アリバイ……か。ところであなたは大丈夫なの?
——まあ、なんとかね。
——じゃあ、病院のあとパーラーで休んでいた、これどう?
——問題はここをどうやって抜け出すかなんだ。何せここは高等部フロアだけに、捜索隊がちょろちょろしていて、上手く部屋を出て寮長室に戻れるかどうか?
——じゃあ、萌えちゃんに骨折ってもらおうか?
——北山に?
——今なら彼女の立ち位置は、私側だから協力OKじゃないかな。合図が届いたら作戦開始よ。
——分かった。じゃあ、合図が来たら部屋をでるよ。