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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第二章 よろしく鎌倉学院
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第59話 紗矢香の祈り

 春風はこの後、紗矢香に連絡がつけられず、見逃しは断念したが、天音の心の奥底に、強い独占欲が芽生えたのだった。

「天音さん、明日から学校もあるし、後は僕が七瀬さんを待ってるから先に就寝してよ」

 そう言われ天音は「大丈夫だから、私、リコを待ってるわ」と春風の座るソファーの隣に座り直した。

 天音は、当初春風を我がものにするために、なりふり構わず色仕掛けを繰り出したが、今は自然な形で距離を縮め、ある瞬間、その魅力に振り向いてしまう、そう、天音式見返り美人、と言えよう男の視線を釘付けにすることができる彼女ならではの高貴な作戦に移行していた。

 そのため無闇にセックスアピールをすることなく、ナチュラルな魅力を見せつけることに徹していたのだ。

 故に従う。

 天音の中には、春風が本当はいて欲しいと想う気持ちがあることを押し殺して、女性を配慮する健気けなげな気持ちがそう言わせたのだと思い込んだ。

 だから天音は、

「そうね、寮長に任せてそろそろ失礼しようかしら?」

 と少しだけ距離を置く言い回しをして、春風の顔色を伺った。

「うん、それでいいよ」

 と未練ない表情をした春風の受け応えに、内心複雑な気持ちになってしまったのは天音の方であった。

 紗矢香、リコ、共に寮に戻ってきたのは、春風が管理室のテーブルに倒れかかるように寝入った十一時を少し過ぎた頃であった。

 

十一時四五分

「ヴーヴー、ヴーヴー」と春風のスマホが振動して、少しだけ意識がぼんやりとする中、紗矢香からの着信に気づき、腕枕のまま電話に出た。

「あい、早乙女です」

「春風くん、よく起きれたね?」

 春風は寝ぼけまなこで周りを見渡し、部屋には誰もいないことを確認してから電話を受けた。

 春風はそれでも周りを気にしながら「いったい門限なんだと思ってんてんですか? って一体、どこにいるんですか? こっちは大変だったんですよ」

 と愚痴るように訴えた。

「ごめんね」

「えっ、素直じゃないですか?」

「まっ、迷惑かけちゃったよね。お詫びと言ってはなんですが、ちょっとだけ出てこない?」

「どこにいるんですか?」

「屋上よ」

 春風はいつ紗矢香が寮に戻って来たかは知るよしもなかったが、呼ばれるがままに一人屋上まで階段を駆け上がっていた。

「ガチャ」

 春風が屋上への扉を開くと、一人星空を眺める紗矢香を見つけた。

 そっと近づき「帰ってたんですね」と少々呆れた態度を見せながら紗矢香の隣で空を見上げた。

「綺麗な星空ね」

「……確かに、そうですね」

「電話くれてたんだね」

「ええ、まぁ」

「怒ってるの?」

 怒ってるの? ってそんな淋しそうな目をして言われたら、「正直怒ってなんかいないから」と白状してしまいそうだよ。

「僕より先に帰っていたはずなのに、何かあったの?」

「実は、あの後ね、吉野さんから泣きが入ったから」

「ニコニコマートの?」

「夕方から入いるはずのバイトさんが、体調不良で欠勤したから、代わりに入って欲しいとショップからの帰り道に連絡が入ったの」

 そうだったのか。

 それならそれで、僕に連絡くれれば。

「水臭いなぁ、電話一つでもくれれば……」

「ラインしたんだけど……な」

「本当に?」

 ちょっと、ちょっと待て、見てないけどさ、来てたのかな? あっ、これか?

「ああ、気づかなかったけど、開いてた」

「でしょ」

「あっ、流れ星!」

 紗矢香は「えっ、あっ流れ星!」と顔を上げたまま目を瞑り、祈るように静止した。

「ねえ、どんな願いごとしたの?」

 春風はその乙女チックに夜空を見上げたままの紗矢香の横顔に問いかけた。

「したよ。知りたい?」

 星空を見上げたまま春風も「知りたいな」と顔を向けてきた紗矢香の視線を外したまま呟いた。

「それは内緒」

「内緒ね?」

「内緒よ」

「僕が喜ばしい内緒かな?」 

「さぁ、どうかしらね?」 

 紗矢香は春風の左肩にもたれながら上目遣いで顔を覗き込んだ。

「クシュん!」

「ねえ、大丈夫?」

 おでこに手を当ててきた紗矢香の顔がとても近くて、反射的に赤面した顔を背けていた。

「大丈夫、だよ」

 そんな照れ隠しに、紗矢香は春風の初心うぶなところ見つけて母性を感じたのか、彼の頭に手を乗せ「風邪ひくといけないから、そろそろもどろうか?」と切り出した。

 向けられた視線に目を合わせた瞬間、垣間見た春風の可愛い素顔に、紗矢香は柄にもなく「キュン」と幸せを感じたのであった。

 

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