第6話 よろしくね。新入りくん!
市川から、住み込み就労を提案された春風であった。果たして、春風はこれを受け入れるのか?
「住み込みですか?」
店長の美涼さんはニコッと笑みを浮かべながら、
「いい案だと思わないかい?」
と僕に誘いをかけてきたんです。
選択肢がなかった僕は、同意するのが精一杯だったから「……確かに」と呟いたんや。
美涼は僕のその薄いリアクションを絡めとるように「さあ、働いてもらいましょうか、春風くん」と交渉をまとめたんだ。
その手際に、僕と翔子さんは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
「よろしくね、新入りくん!」
と翔子さんは僕の頭に手を乗せた。
「よろしくです」
あれ? なんか僕、マスコットか何んかなの? やけに翔子さん、目尻が緩んでませんか?
住み込み生活の始まり
翔子は春風を一階の控室に案内し、ユニフォームであるパーラー七里ヶ浜と白色のロゴが入った緑色のエプロンを渡し、春風がエプロンをかけた姿を見てこう言った。
「よく似合ってるね」
「そうですか?」
「ええ、とても」
「翔子さんも素敵です」
僕何言ってんや。「似合ってますね」だった。ついつい言葉間違えた。恥ずいわ。
「あら、どうも新入りくん」
「そうだ。鎌高の女子サーフィン競技部って、鎌高のHPで全日本ランンカーの方が数名いるって載ってましたけど?」
翔子は自分が全日本ランカーであることを伏せ、
「そうね、いたかしら?」
と含み笑いをしながら答えた。
翔子さん、からかってますか?
「ひょっとして……翔子さん、そうなんですか?」
「そうならクールだよね」
翔子は目を瞑り、左手で前髪を掻き上げながら、
「三月三十一日にね、鎌高前海岸でサーフライドが開催されるの。一緒に見に行かない?」
と僕に誘いかけてきた。
「見に行く? 出場するんじゃないの?」
「……出場? まぁ、出るには出るよ」
「応援に行きます。僕」
「じゃあ、本気モードで頑張んなきゃね……そうだ、私も明日ね、こちらにお世話になる予定だから、よろしくね」
「こちらこそ」
「カラン、カラン」
「翔子ちゃん、ランチタイムに入るからよろしくね!」
「はーい。さぁ行くよ春風くん!」
「はーい!」
――翔子はお客の案内と注文をこなしながら、あたふたしている春風を視界に入れながら、注文の配膳、下膳などの指示を出した。そして、春風も翔子の言葉に遅れを取るまいと必死でノルマを果たし、なんとかお昼のラッシュを乗り切ったのだ――
「ごちそうさん!」
「ありがとうございました。またお越し下さい!」
――ランチ目当てのお客さんの大波を乗り越え、気づけば時計はもう二時半を回っていた――
店長が「休憩に入ってね」っとパートさんらに声をかけていた。
「お疲れ様、明日も十一時から十五時でお願いします」
と話した後、
「ねぇ、あなたたち!」
とテーブルの片付けをしていた翔子と春風の傍まで来てた店長は、こう声をかけてきた。
「翔子ちゃん、お疲れ様だったね」
「お疲れ様でした」
「早乙女くんも初仕事、お疲れ様でした。立ちっぱなしの仕事で疲れたでしょう?」
「あっ、いや……途中から慣れてきたんで、忙しかったけれども、何とかやり切れたんですかね?」
店長は軽く春風の背中を叩き、
「まかない昼食あるから、翔子ちゃんと食べて! そうそう、パフェも用意してもらうから、食べていってね。それで仕事は上がっていいからね」
まだお客さんがいる様子を見た僕は、
「店はいいんですか?」と。
「ここからラストまでは、いつものアルバイトさん達が来てくれるから大丈夫なの。心配してくれてありがとね」
「分かりました。では、まかないパフェ付きいただきます」
「さぁ、春風くん、行くわよ!」
「は、はい!」
翔子 私たち息がぴったりね。
春風 そうでしょうか?
翔子 2人で荒波越えて行きましょう!
春風 サーフィンしたことないんですけど!
翔子 次回「僕の大切な人」
春風 ちょっと恥ずいけど、お楽しみに!