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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第二章 よろしく鎌倉学院
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第57話 紗矢香の生い立ち

 紗矢香はなんなく春風を退け勝利したが、遅れてゴールした春風に「私が欲しくなかったの?」と含み笑いをしながら話しかけた。

 ヘルメットを外して、何となく気落ち気味の僕の頭を撫でながら、紗矢香は「これからもよろしくね」と嬉しそうに挨拶をしてみせた。

 

 ふたりはイカの姿焼き、蛤やサザエの壺焼きがセットになった浜焼きセットをもらい、海が見える公園まで歩き、ベンチに腰掛けた。

「春風くん、アーン」

 えっ、いいの?

 これは恋人のやることでは?

「アーン、アチィ! アチチ!」

 これを見た紗矢香は、お腹を抱えて大笑いをした。

「ゴメンね」と謝りながらも紗矢香に悪意に感じた春風は「やりましたね?」と睨みつけた、がここまで。ふたりは笑いを堪えられず思いっきり吹き出した。

 私、久しぶりに笑った。

 あれ以来、心の底から笑えたことなかったから。

 ありがとう、春風くん。

「ブルル、ブルル、あっ、天野さんからのラインだ。自転車のパーツ交換が終わったらしい」

「ではいきましょうか?」

「ああ、新しいバイクに会いに行こう!」

 江ノ島大橋の反対車線を江ノ島に向かう一台のロードバイクが、走り去る春風たちの姿を捉えていた。

「あれ、早乙女春風じゃね? しかも女の子とサイクリングか? 女にうつつを抜かす時間あったら、ローラーでも乗っとけよ!」

 と東堂が愚痴をこぼした。

 しかし……羨ましいぜ、まったく。

 

ふたりはサイクルショップSRCSに戻ってきた。

「お疲れさま。サイクリングは楽しかったかい? 神楽さん」

「ええ、電動アシストの力、凄かったです」

「ありがとうございました」

「それは良かった。また乗りたくなったらいつでもどうぞ」

「天野さん、電動アシスト、やばかったですよ」

「そうか。さては神楽さんに負けたな?」

「まあ、そんなところです」

「自転車できてるよ」 

「ありがとうございます」

 春風は店の作業場に置かれていたV3-RSを見つけ近寄った。

「あれ、タイヤが変わってる」

「簡単に話すと、前後のタイヤに(ひず)みがあって、自転車職人としては見過ごせなかった、ということだよ」

「歪み、ですか?」

「ああ、()いてたタイヤの歪みは恐らく転倒、或いは衝突時にできたもの。パッと見分からないけど、ダウンヒルやヒルクライムになると推進力や操縦性に影響が出るだろうし、何よりフィーリングが悪くなる。だから変えたよ」

「ありがとうございます」

「それで、コンポーネントについては、中古の105十一段Di2を装備したよ」

 

 このコルナゴV3-RSが想像の枠の外にある高い能力を備えた自転車であることをERCの対抗チームが思い知らさせるのは、箱根湘南ライド本番であることを、まだ、誰も知りえない。 


「さあ、帰ろうか」

「ええ、帰ろう」

 紗矢香はライメイに乗って「春風くん、先に行くね」とウインクをしてメットシールドを下げ、勢いよく飛び出して行った。

「天野さん、本当にありがとうございました」

「やぁ、正直ゴメンな。まさか神楽朔弥さんの娘さんが、ライメイ650で目の前に現れたから、ついはしゃいでしまった。彼女なの? 随分親しげなように見えたからさ」

「いや、彼女とはまだ知り合って間もないから。けど、まだ、友達なんですかね? てな感じです」

「彼女は、かなりビップな家庭環境に違いない。あっ、神楽紗矢香さんだったっけ?」

「ええ」

「確か昔、どっかのテレビ番組で朔弥さんの特集やってて、娘も小さい頃から、ポケバイの大会で、非凡な成績を残していると紹介されていたな」

「そうなんですか?」

「息子もいて、紗矢香ちゃんの兄貴だけど、元サーフィンのプロであった母親の影響を受けて、ジュニア代表であったとか、ここの家庭はスポーツ一家と記憶していたが……」

「いろいろ教えてもらって、ありがとうございます」

「そうだ、昨日の箱スパとの勝負みたいな戦いを本番もやって、箱スパや南海大たちをぶっ倒してやろうぜ!」

「そうですね。自転車のポテンシャルを最大限引き出せるような走りができるよう、練習頑張ります!」

 春風はそう言葉を残し、天野の店を手を振りながらあとにした。

 帰り道、性能を確かめるよう自転車を走らせた。

 まず、最初に乗った時に感じたノイズは消えていた。

 とにかく滑らか。

 これがタイヤの歪みがないと言うことかと理解ができるほど、まるで別物に感じた。

 また、ワイヤレス電動変速機Di2はまさにストレスフリー。

 平坦における急加速時の「ガタガタ」とした四段五段のバタつきは解消され、ギアが噛み合っているって感じられた。

「いい自転車に仕上がってるじゃないか」と天野に感謝しながら、春風はペダルを踏み込み、我が家の女子寮へと帰って行った。



  

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