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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第二章 よろしく鎌倉学院
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第54話 紗矢香とバイク

「天野さん?」

「昨日はお疲れ様だったね。それと、ここよく分かったね。ここ、僕の店だよ」

 春風はここに来るまでの顛末てんまつを天野店長に伝えた。

「このV3-RSは、箱スパの眞露が高校時代に乗っていたもので、RSが廉価版のV3に()けていたと言うことか。どういう訳か? なんかそれ、多分、盗難対策くらいしか想像できないけど。わざわざ価値下げるようなフェイクをしてるんだから謎ですよ」

「何か意味があるかもしれませんが、とにかく計量したら分かるから」

 店内に計量器があることを春風に伝え、天野は春風を自転車ごと中に案内した。

 そして計量結果から、天野は次のように春風に答えを出した。

「総重量が七キロ弱になるね。V3ならこのコンポーネントを勘案したら八キロ強になるはずだから、これはロゴどおりコルナゴV3-RSということになるよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「ところで早乙女くん、このRSは十段のスプロケなんだけど、16Tと17Tのギア溝がなくなっているみたいで、踏み込みとガタつくんじゃない? ギア替えようか?」

「そこなんですけど、十一段にスプロケに変える選択肢もあるんじゃないかと」 

「その選択肢では、シフターも変えなければならなくなるよ」

「えっ、スプロケだけではダメなんですか?」

「そうなんだよ。十段用のシフト系では十一段ギアは使えないからね」

「どうする? シマノ105なら在庫はあるけど、こいつにつけるならデュラエースR9100くらいが相応ってものだけど、取り寄せになっちまうけど」

「工賃入れていくらになるんですか?」

「……ものによるけど。十一段自動変速でパーツを総取替えなら四十万以上するよ。機械式のパーツとスプロケくらいなら十万円くらいはいるね。16Tと17Tの交換でも一万円はするよ」

「ですよね。やはりギアにまい二枚の交換でお願いします」

「了解」

 その時、店前の駐車場に紗矢香のライメイ650が入ってきた。

「これは珍しい、ライメイじゃないか。しかも品川ナンバー、カッコいい!」

 天野がそう言うと、春風は、

「不良娘、やっと来たな」

 と呟いた。

「知ってるの?」

 と天野が聞くと春風は、

「あの子ですか? いや、あのバイク、ですか?」

 と聞き返した。

「もちろんバイクさ」

 そう話しながら、天野は仕事を忘れてバイクに駆け寄った。

「いらっしゃいませ!」

 天野は、バイクに目を輝かせながら近寄った。

 天野はヘルメットを取った紗矢香の顔を見るなり「えっ、学生さん?」と尋ねた。

「まあ、高校生です」

 とさらりと紗矢香は答えた。

 天野はこのバイクのカスタムマークが目に留まり唖然とした。

 このマーク『SAKUYA』は、元GPレーサーで、現在はメカニックの神として知られる神楽朔弥かぐや さくやが立ち上げたレースチューニングチームのロゴであった。

 しかも、市販車のライメイは750ccであり生産台数は世界で200台のレアレプリカバイクであったが、更に驚いたことに、このライメイは逆輸入車で650ccであり、完全受注により組み上げられるレース用のバイクであったことであった。

 天野は「こいつは、こんな女の子がちょい乗りして良いバイクじゃないぜ」と言わんがばかりにこう口火を切った。

「このライメイは、失礼ですが君のバイクなんですか?」

 紗矢香は小声で「ええ、そうですが」と少し不機嫌そうに斜に構えて答えた。

 すると天野の傍にいた春風が、場の硬直した雰囲気を察してか、

「こちらは店長の天野さん、紗矢香さんのバイクに凄く興味があって、僕の自転車のこと放っておいて、君のお出迎えさ」

「……」

「天野さんはERCの部長で、中等部の雫ちゃんのお兄さんなんだ」

「雫ちゃんの兄さん?」

「春風くん、このって、ひょっとして——神楽さん? なの?」

 春風は「ええ」と紗矢香を見ながら頷いた。

「神楽紗矢香と言います」

 天野は、驚きと嬉しさで心臓が飛び出さないよう胸を押さえるコメディタッチなリアクションを繰り出した。

「それには、不機嫌娘もツンとしている訳にはいかず「ライメイをご存じなんですか?」と救いの手を差し伸べた。

「僕は、神楽朔弥さんの大ファンで、バイクにも興味があって、とにかく、このバイクが受注生産のライメイ650であって、あー、なんて幸せな奇跡だって、興奮しています」

「あ、ありがとうございます、と言えばいいのか、父を応援して頂いてありがとうございます」

 と紗矢香は優しい顔に戻りお礼を述べた。

「あー、春風くん、君と知り合いで本当嬉しいよ」

 天野さん、こんなキャラでしたか?

「春風くん、自転車の整備の話は終わったの?」

「ああ、まあ一万……」

「春風くん、今日はスペシャルデイだから、君さえ良ければ、僕のセコのコンポーネント、シマノ105十一段ギアDi2を一万円で取り付けてあげるよ」

「本当ですか?」

「ああ、だって憧れの朔弥さんがチューニングした、しかもライメイ650の実物なんてなかなか見られやしない、それが君のおかげで実物見れたんだから、プライスレスだよ! 本当に」

 でも一万円は必要なんですね、流石商売人ですね。

 

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