第4話 その規定、どうなのさ?
男子学生でありながら、女子寮の寮長に推薦されることになった春風であった。
果たして、寮長になって生活基盤を勝ち取ることができるのか?
市川先生が僕の自転車をバイクと言ったのは、種類がロードバイクであったからであり、そのバイクを見ながら、
「このジオスブルーは映えるね」
と僕の自転車を褒めたんや。そして、
「因みに私の愛車はビアンキさ!」
と何気にバイク好きを捩じ込んできた。
自転車、好きなんやと聞くのもあれやったが、
「先生はロードやってるんですか?」
と振ってみた。
「まあね……良かったら早乙女くんもやってみないか? ロードレース」
「実はですね、僕、高校生以下の関西自転車競技会で中二の時に、五位入賞したことあるんですよ」
「えっ、きみガチ勢なの?」
「まあ、ガチと言われればガチでしたね」
ほー、良い話聞いたぞ。市川は我慢できずに、
「経験者大歓迎。僕のチームに入らない?」
と勧誘を始めた。
そう来ましたね。でも、よく分からへんし。
「まぁ、考えときます」
「心配ないから、大丈夫、大丈夫」
押売り勧誘じゃないか。
まあ、なぜか悪い気はしなかったが、とりあえずサラリと流した。
春風は自転車を引きながら、パーラー七里ヶ浜に向かった。
そして、市川は重たい足取りで職員室に戻った。
市川は職員室に戻ると、
「市川先生、ちょっとよろしいかな?」
と山科学長から声がかかり、応接室へと手招きされた。
「バタン」
市川が扉を閉めて、ソファーに座る山科学長の前に腰けた。
「市川先生! また問題を起こしたそうじゃありませんか」
「もう、お耳に入ってましたか?」
「先生たちがお前のことを呆れてたぞ」
「いやぁ、おじさんに心配かけてすみません」
「頼むぞ! まぁ、お前さんが私の姉の子であることは伏せてあるから、お互いに迷惑はかかりはしないが、こないだみたいに美涼の店のただ券を、お前が学内で配布したああ言う不祥事は、もう二度と御免だからな。次はかばい切れんぞ!」
「分かってますって。反省してますから」
と扉のスリットに人影が映り込んだ。
「コンコン、学長、お茶が入りました」
市川は扉を開けた。
「ありがとう、香山先生」
「いえいえ」
香山は二人のやりとりを気にしながら、応接室から退室して行った。
「市川先生、で、今日は何のトラブルだったのかね?」
「ええまあ、それがお恥ずかしい話なんですが……」
「さっさと話しなさい」
「はい。実は男子新入生の性別を女性と勘違いしまして、学生寮の入寮許可を出してしまいました」
「……」
「男子寮は来春から入寮を開始しますので、当然、今年は寮には入れません」
「ところで、その新入生から、高額寄付金を受け付けていたかどうか、調べはついておるのかね?」
「寄付はありません」
「そうかね。まぁいずれにせよ、学校側の手落ちな訳だから、なんとかせねばなるまい。しかし……今からじゃ、アパート探しは厳しかろう?」
「ええ。そこで私に一つ妙案がありまして……」
「何だね? 女子寮に住まわせるってのはダメだぞ。お前なら言いかねないからな」
「学長、それです。女子寮に入ってもらうんですよ」
「またとんでもないことを! お前の頭ん中は一体どうなっとるんじゃ?」
「よく聞いてください。実は、女子寮の秋田寮長が急遽退職したいと言われておりまして、四月から次の寮長を雇うまで、私が寮長をする予定だったのです。そこで、この学生を寮長として雇いいれたらどうかと思いまして」
「学生に寮長? しかも女子寮に男性寮長なんて、問題あるんじゃないか?」
「いいえ、問題はないかと」
「何? ないのか?」
「はい、問題はありません。あくまで規定上の話ではありますが。運営規定には、寮長の年齢や性別、学生が兼ねられないなどの制約は一切ございません」
「異性の学生が寮長を兼ねるなんて発想自体、想定外なことだから、規定されてないと解釈するのは、些か無理があるんじゃないかね」
「この規定は私が作りました故、その想定は当然ありましたからご安心を」
「本当に意味がわからんことを言ってくれるなぁ、市川先生。それと随分と緩い規定をつくったもんだ。まっ、それはそれだな」
「学長、ありがとうございます。」
「ところでその学生、氏名はなんて言うんだ?」
「早乙女春風です」
「早乙女春風、確かに名前の響きは女性だな」
「学生カードの個人情報欄には男に○が付いていましたから、こちら側が、いえ、私が錯誤して入寮許可証を出したことになります」
「ふん、それならばやむを得ない。そうだ! 今後のPTA対策として、早乙女春風を私の身内とでもしておくかね」
「流石、山科学長。素晴らしい対策ですよ。いやー素晴らしい」
この応接室の密談では、誰にも聞かせられない程、教師にあるまじき隠蔽工作が図られていた。
「ところで市川先生、秋田寮長の契約終了まで後三日程あることになると思うが、それまでの間、その学生をどうするつもりか?」
学長 いつになったら盛り上がるのかね?
市川 まあ、慌てないで下さい。
学長 前置き長いんじゃないか?
市川 次に期待しましょうよ!
学長 次回「ようこそ、パーラー七里ヶ浜へ!」
市川 見逃さないでね!




