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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第一章 湘南の春休み
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第38話 嵐の前の静けさ

それはさて置き、次だ。

 サウナのあの子は一体誰なのか? と言うことになる。

 女子寮生は全員で二五名の部屋割りがあるのだが、僕と詩織を除けば二十三名が自ずと残ることになる。

 正直言って、あの子は自分に近い年齢ではないのか位にしか、思えない。

 だから一部屋ずつ声をかけて、確認してゆくしか方法ないのか? 

 いや、よく考えるんだ。

 ——あっ、あるじゃない!

 今夜に限り使える妙案が浮かび、僕は寮を飛び出た。

 そこに、すれ違うようにあの子が寮に帰ってきたのだ。

「寮長室に明かりがついているけど、パッと見ていないみたいね」

 と言いながらあの子は暗がりの中、階段を登って行った。。

 ちょうどその頃、僕は外周から部屋窓の明かりを確認していた。

「こちら側の部屋に明かりなし。じゃあ反対側は——こちら側も真っ暗か」

 外出中なのか?

 グー、と空腹を知らせるようにお腹が鳴ったため、寮に戻った僕は、食べかけにしていたサンドイッチをまた一口かじる。

 その時、スマホがバイブした。

「ライン着信だ」

 スマホを覗くと紗矢香さんであることが分かった。

 

——無事帰れた?

 ——おかげさまで。

——気になる子に会えた?

 ——いいえ。

——そっか。今日、星が綺麗よ!

 ——夜空見てなかった。

——見においでよ!

 ——えっ、どこへ?

——星空に一番近いところ。

 ——一番近い?

 展望台、屋上か?

——待ってるよ。

 ——待ってるの?

 えっ?

 待ってるって?

 まさに違和感。

 その一文に妙に駆られる。

 部屋をそのままに、僕は階段を駆け上がる。

 一緒に星空を見ようだなんて、そんなの、古臭い昭和か平成のメロドラマみたいで、恥ずいと感じたが、どうしてこんなにワクワクするのだろう?

 これを「恥ずい」で片付けようとした僕は、ただの青二才だったということなのか?

 

「ガシャ」

 扉の鍵を開けた。

 その先に、広がる星空の天体パノラマは、紗矢香さんが誘った意味がわかるほど、星がたくさん輝いていた。

 何よりも、慌てて辺りを見渡してみたが、屋上には誰の姿も見当たらなかった。

 「フウッ」とため息一つ。

「だよね、いる訳がないか?」

 そうボヤきながら、再びラインをのぞいた。

 

——どう? 星空は?

 ——ええ、まあ、綺麗ですね。

——感激ない感じ?

 ——いや、そうでなくて。

——そうね。

 ——今、星空見ているのですか?

——早乙女くんを見てるよ。

 ——またまた。

——その格好、少し寒くない?

 ——えっ?

 僕は再度、周りを見渡した。

 誰もいないし。

 ——悪い冗談やめて下さい。

 冗談言ってるつもりないんだけどね。

 まあ、そうなるよね。

——デタラメでゴメンネ。

 ——確かに寒くなって来たから、部屋に戻るよ。

——そうだね。もう九時前だから。

 ——明日はバイトですか?

——そうね、夕方までバイトなの。

 ——頑張って下さい!

——ありがとう。早乙女くんは?

 ——明日は用ありで、非番です。

——そうなんだ。そろそろライン終わるね。じゃあ、おやすみ。

 ——じゃあ、おやすみ。

 

 改めて見上げた星空はとても美しかった。

「さっ、戻ろ」

 僕は屋上をあとにした。

 

「さあ、私も部屋に戻るとしますか」

 紗矢香も春風が星空をあとにしたあと、部屋に戻った。

 

——春風は再び寮長室に戻り、シャワーを浴び、髪を乾かしくつろいでいた——

 

 また、ラインの着信があり、テーブルに置いたスマホを覗いた。

「翔子さん?」

 

——春風、元気にしてる?

 ——元気にしてるよ。そっちの感じはどう?

——まずまずってとこだね。

 ——いつまで宮崎にいる?

——待ち遠しい?

 ——うん、まあ。

——四月八日の日曜日かな?

 ——寮長としての仕事は始まってるの?

——そうだね。まだ、寮生が帰省中だから——あっ、そう、一つ事件があったんだった。

 ブルブルブル、ブルブルブル。

 えっ、電話?

「もしもし」

「ねぇ、事件てなにがあったの?」

「なぜ電話?」

「気になるじゃない? 何があった?」

「なんか電話だと話しにくいな」

「いいから話しなさいよ」

 垣根がなくなってる。

 姉弟きょうだいってこんなもの?

「う、うん。あのね……」

「何々?」

「やっぱり、いいよ」

「い・い・な・さ・い!」

「……分かった」

 あーあ、黙っときゃ良かったかな。

「実は、女子寮生が……」

「女子寮生が?」

「明日、まだ大会中なのに、こんな話聴いてて大丈夫なの?」

「大丈夫よ。長い大会期間中のコンディションを保つには、家族と会話するのも効果あるんだよ」

 本当に? アスリートの調整って、集中するため外部とは連絡取らないってよく聞くが……。

 まあ、人それぞれか。

「女子寮にサウナがあって、入っていた女の子が僕を不審者と思い、閉じ籠ったことで、脱水症状になってしまったんです」

「それで彼女は大丈夫だったの?」

「その子が救急車は呼ばないでって言われたから、寮長室のベッドに寝かせて、水分を摂らせたり、身体を冷やしたり介抱しました。で、朝、もう大丈夫って書置き残しがあり、僕が眠っている間にいなくなってしまったんだ」

「そんなことがね」

「でも、その子と会えていなくて、名前も知らないし」

「そうだね。その後の体調気にかけてあげないとね。寮長」

「そのつもりなんだけどね……」

「分かった。じゃあ明日もあるから先寝るね」

「そうだね、おやすみ」

 

 あっ、成績聞くの忘れた。

 そうだ。そろそろテレビでハイライトあるから見よう。

 

「ピッ」

 僕はテレビをつけて、チャンネルをサーフィン大会のハイライト番組に合わせた。

 三十分のダイジェスト番組を宛にして、聞きそびれた翔子さんの戦績を知ろうとしたが、ハイライトとして取り上げられていた選手の中に翔子さんの名があったものの、注目のライディングまでもが、ダイジェスト化されていた。

 

 どうしよもない気持ちの中、テレビを消したあと、翔子に頑張れと、心の中で大きなエールを送ったはるかであった。

 

 そして、いよいよ明日、鎌倉学院女子寮生が、帰省から戻るもの、また、新たに入寮するものがすべて集まり来るのだ。

 

 春風は少し緊張した面持ちて、寮生部屋割りを見つめていた。

「よっしゃ、明日からだ、気合い入れろ!」

 

 

 

                     第一章終焉

 

第二章は近日公開する予定になります。

またの応援よろしくお願いします。


             三ツ沢中町 より

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