第37話 詩織がいるってどう言うことさ?
女子寮部屋割りを見る
春風が紗矢香と別れ、自転車で漸く女子寮に戻ったのは、午後七時半を過ぎてからのことだった。
女子寮の正面玄関脇にあるポストに届いていた郵便物が溢れかけていたため、春風は建物内の取出口からそれをゴソッと抜き出した。
「いつから溜まっていたのかは知らないけど、人の数だけ手紙はある、そう言うことだよね」
と呟きながら、左手で鷲掴みしたあと、右手で拾い上げた郵便物を胸で押さえつけながら、管理室に入り、テーブルに積み置いた。
「この量凄いや」
と大きく息を吐きながら、一つ一つ宛名を確かめるように郵便物を振り分けた。これを管理室から通路を挟んだ集合ポストに投函した。
そして、帰り途中に立ち寄ったパーラーで、テイクアウトしたサンドイッチをテーブルに置き、これをかじりながら、まずはサウナのあの子の部屋を探し当てるべく、策を思案した。
もちろん、彼女の顔は見ているが、ぐったりとして目を瞑っていて髪を纏め上げていたことなどからも、次に見た時に「この子だ」っと言い切れるほど認識できる記憶はない。しかし、今夜に限り、この寮には僕とあの子しかいない訳だから、見つけた子があの子であることは明白ではないか?
結局、寮生の部屋をすべてを尋ね当たらねば、見つけ出せない状態であると言うことなんだ。
そこで取り出したるは、前寮長秋田さん作で、今年度の女子寮の部屋割表だ。
これなら部屋を見つけ当てさえすれば、名前まで分かるはず。
三階 高等部 15名
三〇一号 モデ3年 五十嵐天音
三〇二号 特進3年 美濃部撫子
三〇三号 芸能3年 田中エリー
三〇四号 特進3年 神谷紗耶香
三〇五号 音楽3年 華宮麗香 高三学年長
三〇六号 音楽2年 浅倉美穂 高二学年長
三〇七号 普通2年 神楽紗矢香
三〇八号 芸能2年 小日向マリ
三〇九号 モデ2年 桜山カオル
三一〇号 特進2年 吉川ミカ
三一一号 音楽1年 石原雪乃 高一学年長
三一一号 スポ1年 北山萌
三一一号 特進1年 早乙女春風
三一一号 音楽1年 朱鷺谷ララ
三一一号 特進1年 蛭間修子
中等部 10名
二〇一号 芸能3年 七瀬リコ
二〇二号 音楽3年 天野雫
二〇三号 音楽3年 早乙女詩織
二〇四号 スポ3年 佐伯セレナ 中三学年長
二〇五号 空室
二〇六号 空室
二〇七号 音楽2年 東宮花音
二〇八号 芸能2年 園原セシル
二〇九号 スポ2年 山本蘭 中二学年長
二一〇号 空室
二一一号 空室
二一二号 音楽1年 佐久間ミウ
二一三号 モデ1年 山科楓
二〇四号 音楽1年 華宮律子
二〇五号 空室
※学校には専攻科が複数あり、モデはモデル科、特進は特別進学科、芸能は俳優・歌手・アナウンサー育成のための芸能育成科、音楽は声楽・器楽科、スポはマリンスポーツ専攻科を指します。
※学年長は寮内における各学年ごとの責任者になります。
えええ?
ちょっと待って——
妹?
なんで?
早乙女詩織。
同姓同名?
しかも、中等部の音楽3年じゃないか?
あいつ、ピアノ専攻科のある中学に編入するって聞いてたが、その中学が鎌倉学院中等部、だったのか?
しかも、学生寮か。
単身生活なら学生寮は妥当か。
でも、騙し討ちじゃないか?
父さん。
……まて、女子寮の寮長になってるのバレたら、えらい事になる。
明日、早く見つけて口止めしなければならぬな。
ああ、気楽な高校生活になると確信しながら、監視付き? いや、お守付きか。
あの人らの考えつきそうな発想だ。
春風 春休み篇も残すところあと1話か。
中町 次は第2章になるよ!
春風 僕はこの後どうなって行くのかな?
中町 それは次章のお楽しみ!