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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第一章 湘南の春休み
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第33話 バイト上がりの不思議な関係

——春風にとってバイト上がりまでのニ時間は、年越しを祝うためのいわゆるカウントダウンと化し、幸せを呼び込む無数の天使が、頭上に舞い降りてきていた——

 

 こんなに約束が待ち遠しいと思ったことが、これまでにあっただろうか?

 浮かれている僕。

 休憩を終え、僕ははやる気持ちを押さえて仕事に戻った。

「春風くん、でいいかな?」

 と吉野さんが声をかけてきた。

「はい、春風と読んでください!」

「じゃあ、私は吉野じゃなくて、かおるさんでいいわ!」

 かおるさんか?

 イメージにたがわないな。

「春風くん、悪いんだけど、ダストボックスの処理と、終わったら外から窓ガラスを掃除してもらえないかしら?」

「任せて下さい。裏の倉庫にあったバケツと雑巾、それに水切りブレイドを使えばいいですね?」

「よく分かってるね。素晴らしい!」

 まったく大袈裟な!

 でも、なんだか悪い気はしないな。

 僕は店の外へ出て、窓を拭きながら、気がつけば店内でレジを打ったり、商品を陳列する彼女をずっと追っていた。

 間違いなく浮かれていた。

 でも、目が合いそうになると、サッと気にしていないフリをして、また、続きを目で追っていた。

 そこに店から出てきた男性客からの強い視線を感じ、我に帰った僕は、赤面して思わず顔を逸らした。

 

「お疲れ様でした」

 掛け時計が午後一時になったのを確認した僕はいち早く仕事を上がり、店の外にて彼女が出てくるのを待っていた。

 暫くして彼女が店から出てきた。

 僕は一瞬にして紗矢香の姿に魅了された。

 

——紗矢香は、明るめの肌にコーラルピンクの口紅をさしたキュートなルックスに、透明感のあるミルクティーブラウン色の長い髪をしなやかになびかせた。ブルーデニムシャツの下に覗かせる白いテーシャツが清楚な感じを与え、細い首筋から胸元にかけ女性を意識したシルバーのハートネックレスが揺れる。腰周りのくびれから脚の長さが綺麗に映るストレートブルージーンズに白いスニーカーが、春風にクールかつ可愛らしい女性としての印象を与えた——

 

 紗矢香は目を細め、

「何見惚れてるの?」

 と春風をからかった。

「あっ、いや、さっきまでマスクにエプロンしてたから……」

「してたから?」

「あの、紗矢香さんなのかなと思って⁈」

 何いっちゃってるんだ? 僕は! センスの一欠片すら感じられない迷言を吐いてしまった。

「春風くんは見かけと違って、女の子の扱いが下手ね?」

 と紗矢香からの辛辣な一言が、くさびのように打ち込まれた。

 くっ! 認めたくなかったことだけど。

 参りました。

 お見込み通りです。

 交際経験の乏しい僕に期待されても、ご期待に添えないので申し訳ない!

「ほんと、期待に添えず、すみません」

 とすっかり気落ちした僕は、弁解の余地なく、そうこぼした。

 それを聞いた紗矢香は、一瞬間を空けた後、クスッと笑いながら、

「ウブなんだね」

 と一言呟いた。

 ううう、この場から消えてなくなりたいよ!

 恥ずかし過ぎ! 

 ああ、終わったわ……。

 短かったこの想い。

「……すみませんでした」

「そろそろ、行きましょ!」

「ええ?」

 なんで誘うの?

 みじめすぎるよ。

 紗矢香は気落ちしている春風の横を通り過ぎたところで、振り向きざまに右手で髪をかき上げながら、

「そういうとこ、嫌いじゃないよ」

 とニコッと笑顔を覗かせた。

 春風は、早撃ちガンマンの紗矢香に、ハートのど真ん中を撃ち抜かれた気分であった。

 また同時に、どうにも理解し難い複雑な乙女ごころが、僕の一番深いところに刻まれた気がした。

 一方、紗矢香は紗矢香で、「早乙女くんは私のこと、気づいていないのかしら?」と、春風の無頓着振りに、なぜだか愛嬌あいきょうを感じていた。

「そうだ! 自転車のヘルメット持ってるよね?」

「ええ、まあ」

「じゃあ、それを被ってね!」

「はい」

 紗矢香はバイクにまたがり、スタンドを外した。

「じゃあ、ここのステップに足をかけて乗って」

 と紗矢香に言われ、僕はバイクの後部シートに跨った。

「私の身体に掴まってみて!」

 と言われ、彼女の細い腰回りに手をまわした。

「こんな感じ?」

 と聞き返した僕に、紗矢香は、

「もっとしっかり体を預けてしがみつかないと、振り落とされちゃうよ」

「じゃあ、こんな感じでいいですか?」

 と春風は紗矢香に身体を密着させた。

「それでいいよ」

 そう言い、紗矢香はイグニションキーを右に捻りエンジンを始動させた。

 すると二本出しのマフラーから、ボボボボッと重低音か響き、大きな振動が体に伝わってきた。

「どこに向かうの?」

「それは着いてからのお楽しみ? いや楽しくはないかも知れないけれど」

「あっ、大丈夫!」

 と彼女の背中越しに言葉を交わした。

 本当は行先はどこでも良かったんだ。

 彼女と一緒にいられるなら。


春風  なんかワクワクしすぎてやばすぎる。

紗矢香 女の子とデートなんて思ってる?

春風  いえいえ(ツンデレ不良娘!)

    次回「ライメイ650」でお会いしましょ

    う!

紗矢香 まだ、私、誰も後ろに乗せたことなかったん

    だからね。


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