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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第一章 湘南の春休み
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第30話 神楽語録

 僕はパーラーまでペダルを回し、スマホを回収した後、ニコニコマートへ遅刻の連絡を入れた。

「はい、ニコニコマート片瀬海岸店です」

「もしもし、バイトの早乙女ですが」

「おはようございます、神楽ですが、どうかされましたか?」 

「あっ、この前の電話の方ですか?」

「ええ、そうですが、どうかされましたか?」

「実は今朝七時半入りだったのですが……」

「出勤初日から遅刻ですか?」

「大変ご迷惑をおかけしています。申し訳ありませんが、八時までにはなんとか着けると思いますのでよろしくお願いします」

「分かりました。では遅刻の理由を教えて下さい」

 それを聞きますか?

 でもまさか、昨夜の女子寮での出来事で疲れ果てて寝坊しましたなんて、開き直ったら、まず首だろうな?

「まさか、寝坊じゃないですよね?」

 いい読み! でも、やけに絡まれるな。

 これが社会の掟なのか?

「遅刻の理由は……」

「遅刻の理由は、なんですか?」

 もう、どうとでもなれ!

「僕のせいで意識を失って危ない状態になってしまった人がいて、その人のことをなんとかして助けなきゃって。でも、その人が意識を取り戻してくれて、本当に良かったって。その日は、いろいろな事があった後でしたので、疲れがどっと出てしまって……」

「それで寝坊してしまった、と言うのですか? 社会人としては寝坊はまずいですね」

「ええ、そうでしょうね」

 バイトに出勤する事なくクビになるのか?

「……その助けられた人は、きっと感謝していると思いますよ」

「えっ?」

 どう言う流れ? 同情?

「僕が原因でも、ですか?」

「いずれにしてもね」

「本当にその人は、感謝していると思われますか? 神楽さん?」

「そうね、あなたに感謝していますよ。きっと」

「ありがとうございます。それを聞けて何よりです。バイトの件は、諦めがつきました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「早乙女さん、何を言っているのかな? クビにはなりませんよ」

「えっ?」

「社会のルール的には遅刻はタブーだけれど、それを繰り返さないよう努力し、その機会を与えることが、社会の一員として迎える側の姿勢じゃなきゃならないと思うの」

「……それじゃ、僕はチャンスをもらえると?」

「そうですね。ですから、気をつけていらして下さい」

 神楽さん、マジ天使! いや、マジ神だ!

「行きます! ありがとうございました!」

 なんて人格者なんだ、神楽さん。

 この人について行きたい気分になるね!

 

「あらっ、春風くん。朝早くからどうしたの?」

「美涼さん。これからバイトなんです。僕、朝からなんかテンション上がっちゃって!」

「そうか、いい事あったのね」

「はい!」

「じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!」

「はい」

 

——春風はニコニコマートまでの道中、幸せな気持ちで満たされていた。そしてもう一つ、春風の心を刺激しているもの。それは、あの不良娘の紗矢香のことであった——

 

 あの子は、今日はバイトに来てるかな?

 来てたら、いいな。

 やはりこれって、恋なのか?

 初めての感覚だ。

 なぜだろう?

 一度も言葉も交わしたこともないのに、ちょっと見かけただけだったのに、僕の心を縛って離さない。

 早くあの子がいる場所に行きたい。仕事と言う口実でも、なんでもいい。

 ただ近くにいたい。

 思うだけで、鼓動が速くなる。

 その鼓動がピストンのようにペダルを加速させる。

 

 自転車は、水面に朝陽の輝きを散りばめたスパンコールの合間をうように進み、目に映る景色は風のごとく流れていった。

神楽 人生、山あり谷あり。

春風 僕は平坦な道はつまらないと思います。

神楽 つまり試練が必要だと?

春風 いやいや、波風立たない方がいいですけど!

   次回「アシスト紗矢香」

神楽 お楽しみに!


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