第29話 危機一髪
春風は慌ててサウナ室まで駆け付け、ドアノブに手をかけた——
くそ! ここからじゃ、中の様子が分からないじゃないか!
「ドンドンドン」
「おーい! 大丈夫ですか?」
「ドンドンドン」
「寮長の早乙女です!」
「怪しいものではありません!」
「この声が聞こえるなら、ドアを叩いて下さい!」
……いなけりゃ良いんだ!
「開けます!」
あっ、暑い。この暑さまずい!
えっ、ちょっと、倒れてる?
「おい! 大丈夫か! おい!」
やばい!
救急車!
スマホは?
「しまった。パーラーで充電したままだった」
こんな時に! いや、彼女が先だ!
早く運び出さなきゃ!
僕は彼女を仰向けにしてからお姫様抱っこの要領で抱きあげ、サウナ室を出た。
安静にできる場所は寮長室しか思い浮かばず、僕は抱き抱えた彼女をベッドへと運び込んだ。
そして、自分のフェイスタオルを水で濡らし搾り上げ、額と首筋にあてた。
その後、彼女の巻いていた汗でぐっしょり濡れたバスタオルを、「目を瞑るからゴメンね」と言って脱がせ、身体の汗を拭き取り、乾いたバスタオルを身体に巻き付けた。
そして、救急車を呼ぶために彼女の側を離れようとした時、彼女の指が僕の体に触れた。
「大丈夫だから、少し水を飲ませて」と彼女はつぶやいた。
良かった! 意識が戻った!
僕は冷蔵庫に入れておいたミネラルウォーターをとりだして蓋を開けた。
そして彼女の上半身を少し起こしながらペットボトルを傾け口に注いだ。
そしてまた、彼女を横にねかせた。
彼女は血色を少し取り戻し、しばし眠りについた。
気づけば、タオル一枚腰に巻いた状態であることに、今更ながら気づいた僕であったが、安堵感からか床に腰を下ろしたら、全身の力が急に抜けてベッドに寄りかかりながら意識を失った。
——サウナ騒動もことなきを得て、女子寮にいつもの朝がやってきた——
「うっ、いてててて、あれ?」
パジャマ着てる?
なぜ?
しかも、パンツ履いてるよ?
床に掛け布団が敷いてあり、僕はその上で寝ていた。
腰にタオルを巻いてたはずだけど、いつのまに着替えたの?
そうだ、彼女は?
「いない」
あの子大丈夫だったんだよな?
「あっ、手紙?」
「昨夜の出来事は、二人だけの秘密にしておいてね。あなたに助けてもらった少女より」
彼女はいったい何者だったのか?
女子寮生ではあると思うが……。
名前も知らない女の子、でもどこかで見たよな気もするし?
髪にもタオル巻いていたし、ぐったりした顔だったから、どこかで見たような気がするのは、やはり、気がしているだけなんだろうな?
あっ、もう七時まわってるじゃないか!
パーラーからバイト先に電話しないと!
彼女の安否をこの手紙で確認した僕は、慌てて着替えて寮をでた。
「急げ、春風!」
春風 神楽さん、あなたを信奉します。
神楽 なかなか言うじゃない。でも、何に?
春風 次回「神楽語録」
お楽しみに!
神楽 私の名言、聞き逃さないようにね!