第3話 寮長はいかが?
学校側の手違いで入寮許可をもらった春風であったが、今更どうにかなるものでもなく、抗うしか道はない。担当市川も困り果てる中、天啓が舞い降りた。
果たして、その天啓とは、いなかるものなのか?
担当市川は、勇んでこう話した。
「早乙女くんは、来月からこの女子寮の寮長になるつもりはないかな? 私が君を推薦しよう!」
「ええっ? 僕が、女子寮の寮長ですか?」
「そうだよ、君は寮長になれるんだよ。寮長はいいぞ! 部屋代、光熱水費から食事代まですべて無料な上、部屋にあるベッド、冷蔵庫や電子レンジなどの家財がすべて自分専用となり、トイレや風呂も備わっていて、日のちょっとした仕事をこなすだけで、手当までもらえちゃうんだから実に素晴らしい。もう一つおまけに、女学生に囲まれたハッピーな寮生活も約束される訳だから逃す手はないよ、早乙女くん」
んー、寮長が女の子に囲まれてハッピーだなんて、教師にあるまじき発言やんか。市川先生、何考えてんの?
がしかしだ! 降って湧いた話にせよ、生活費が無料なんは惹かれる。
「先生?」
「はい?」
「来年、僕はここで寮長やってても、ちゃんと男子寮が完成したら優先的に入寮させてもらえるんですよね?」
「も、もちろんだとも、早乙女くん。私が誰だか知ってるよね、学生寮の担当なんだからね、任せなさい!」
なんだか市川先生、なんと言うか頼りないって言うのか、ただお調子ものみたいやね。
こんなんやから、こんな手違いも起こっちゃうんじゃなかろうか? きっと。
ハッピーなんて言ってること自体、無責任さが滲み出るとしか言いようないし。
「でもまあ、このままだと家なき子になっちゃうから、先生よろしくお願いしますよ」
「ああ、任せなさい」
あー、冷や冷やしたわ! と内心、市川は胸を撫で下ろした。
そして、今さら校長に性別間違えましたなんて、言いにくいなと思いながらも、
「今から学長に、早乙女くんが寮長になるための許可をもらって来るから、一時間くらい待っててくれないかな?」
と猶予を貰いたいと話した。
「それくらいなら、待ちますよ」
「ほんとすまないね」
「私も学生生活がかかってますから」
何かに気がついたように、市川先生が突如、
「そうだ、君はパフェは好きかい?」
と甘党確認の探りを入れてきた。
なぬ? 唐突にパフェですと?
「嫌いでは、ないですが……」
「では、君にこれを差し上げるとしよう」
「ありがとうございます……って何を? 割引券とでも?」
「いやいや、よく読みたまえ。お好きなパフェ、ドリンクとパンケーキがセットになって無料と書かれているのだよ」
「本当だ……でもどこで何したらもらえる無料券なんですか?」
食いついたな、若者。
二回半ひねりのリアクションだ。
いいだろう。
教えてやろう。
「これはだね、私の姉が経営するパーラー七里ヶ浜をインスタなんかにアップしてくれたお客様に感謝の記しとして配られる、それはそれは貴重な無料券なんだよ」
「では、市川先生もインスタでゲットしたんですか?」
「いやいや、身内がやってもね。私は姉に、若くて生かした学生がいたら、その子らに渡してくれと頼まれているだけだよ。そんな子たちが店に出入りすれば、きっと店も評判になり流行るからね」
なるほど。なんとも打算的なこと。
「では遠慮なく、ん? そのパーラー七里ヶ浜ってどこにあるんですか?」
「校門出て、駅までの下り坂の途中右側にあるんだけどね、分かる?」
「……あっ、分かった! 駅の少し手前に、らしき店ありましたね」
「そこよそこ。二階のオープンデッキは、湘南を一望できる絶景のスポットって、雑誌やテレビでよく紹介されているから」
「へー、楽しみ。では行ってきます」
「では一時間後に、君のスマホに電話するからよろしく」
「了解しました」
「それと……いいバイク乗ってるじゃん!」
市川 寮長はいいぞ! ハーレムや!
春風 先生、教師としてまずい発言ですよ!
市川 そうだった。また学長に怒られちゃうな。
春風 次回「その規定、どうなのさ?」
市川 お見逃しなく!