第27話 キス
――キス――
鎌倉学院前駅で僕は雪を見送るため、構内まで付き添った。
「今日は会えて楽しかったよ」
「私も。また、ラインするね」
「ああ、じゃあまたな」
雪は電車に乗り込もうとしたが、急に振返り、
「あっ、忘れもの」
と言い僕のところへ駆け寄り、唇にキスをした。
「トゥルルルル……」
発車音と共に雪は電車に駆け乗った。
「雪」
そして雪はうつむき、春風に背を向けたまま、江ノ電は走り出した。
春風は電車を見送った後、僕は、しばしベンチに腰を下ろし、ボーっと夕暮れを眺めていた。
寮の星空
「あーっ、きつねに化かされた感じだ」
あのキス一つで雪の思いをすべて知れたなら、色恋ごとなんか、楽なもんだろう。
裏に隠された意味を絡みとれるほど器用でなく、経験も少ない。
ただ、あの公衆の面前で、キスをやり退けた思いの強さは本物だと分かるよ。
「ああ、あんな思いで人を好きになれたら、幸せになれるんだろうね」
そんな思いに浸りながら、夕飯を食べにパーラー七里ヶ浜に寄った。
「こんばんわ、美涼さん」
「あら、いらっしゃい」
「顔を出しがてら、食事に来ました。けど、忙しそうですね?」
「今日ね人手が足りないの、どう? 一時間くらい手伝わない?」
僕は店内をざっと見渡し、
「確かに人足りてませんね、やらせてもらいます」
「ほんと悪いわね」
——パーラーとは名ばかりで、夜は定食を出しているようだった。そして一時間が過ぎた——
「お客さんのピーク漸く超えましたね」
「ありがとね、じゃあ、ご褒美にまかない食べてがない?」
「良いんですか?」
「良いわよ、休憩室で食べて行ってね」
「では下がります」
厨房で今日のまかないに用意された、甘辛く味付けされた刺身の切れ端を丼ぶりご飯にのっけた「ぶっかけ丼」を厨房の板長さんから受け取り、休憩室に運びテレビの前に座った。
スマホの充電しときますか。
僕はスマホをコンセント付近に置きつつ、まかないと向き合う。
「いただきます」
木箸をパカっと割って食べ始めた丁度その時、テレビのニュース番組で明日から開催される宮崎のサーフィン大会の特集コーナーが流れていた。
今大会の注目として高校生サーファーの風間選手と葉山選手の両名が挙げられており、台風の目として紹介されていたのだ。
翔子さん、あんなに近くに感じていたのに、まるで別世界の人のようだ!
「では、明日から始まる全日本女子サーフィン競技会宮崎大会は、ご覧のチャンネルで、三日から五日の午後二十二時三十分よりハイライトにて放送いたします。それでは失礼します。ピッピッピッピー、七時になりました……」
明日から大会が始まるのか……
春風は、まかない飯をかけ込み、店長美涼に礼を言い、学生寮へと戻って行った。
雪 キスしたの初めて?
春風 いや、そんなことはないよ。
雪 またまた、無理しちゃって!
春風 それどう言う意味ですか?
次回「危機」
雪 キスは魔法よ。春風くん!