第26話 気になる女の子
――気になる女の子――
国道一三四号を七里ヶ浜に向かう途中、片瀬東海岸交差点で赤信号になり足を止めた。
左側には丁度ニコニコマートが見えた。
あの子、確か紗矢香って言ってたっけ、彼女の緑に白のロゴの入ったレーサーレプリカタイプのバイクが、ところ狭しと停まっていた。
あの子、不良娘って吉野さんが言ってたけど、どんな子なんだろう?
あれっ、ちょっと気になってる?
ん? 何か視線感じる。
「あの子がこっち見てる?」
まさか……いや、まさかね。
あっ信号変わっちゃった。
——なんだか紗矢香のことが気になり始める。そしてまだ、この想いの正体を春風はまだ知らない——
五年ぶりの再会
「ここだ、エスプレッソSワークス七里ヶ浜店」
自転車を石垣に立て掛け、階段を登り切るとそこに、時計をチラッと見ながら立っている一人の女子と目があった。
「えっ、春風、なの?」
その子は驚いた様子で僕を見た。
「待たせたね」
「へぇ、別人みたいカッコ良くなってない? 本当に春風?」
「やだな、そんな言い方やめろよ……あのさ、ずっとここで待ってたの?」
「うん。待ってた」
「そんな純な子だったっけ?」
「まぁ、失礼ね! はっ、ははは。そうよね、お天馬だったもんね、無理もないよね」
僕は彼女を気遣うように切り出した。
「遅くなってごめん。さぁ、中へ入ろうか?」
「うん」
——二人はお互いの変わりように驚きながらも、久しぶりの対面に心踊らせつつ、店内に入った——
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「はい」
「では、海が見えるカップルシートへどうぞ」
二人は顔を赤らめてこう呟く。
「カップルに見えるのかな?」
「私はカップルに見てもらえて嬉しいわ」
やはり、そう見られちゃうよね。
「ではこちらになります。注文決まりましたら、声をおかけください」
久しぶりなんだな、五年ぶりの再会か。
あの頃は小学生だったから、彼女が僕より背も高くて、活発な子だったのに、今は随分女の子らしくなってる。
「ねぇ、私ね鎌高に進学したんだ。春風と同級生になるのよ」
「えっ、鎌高? まさか特進クラス?」
「そうよ」
「でも、クラスは二つあるから、分からないんじゃないかな?」
「きっと一緒になれるわ」
一緒?
まあ、どちらでもいい。
比べる訳じゃないが、翔子さんは一言で表現するなら、母性を感じる自立した甘えさせてもらえる年上の女性だったから、同級生でお互いの立場が同じ女性には、なんとなく踏み込まれると、自然と距離を置いてしまう自分がいる。
求められると、つい引いてしまうな。
「さあ、注文しようよ」
「この店はね、パンケーキが美味しいのよ。どれにする?」
「色々あるから、選んでいいよ」
「春風はイチゴは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「ドリンクは何にする?」
「このアイスココア」
「私はルイボスティーホット」
「すみませーん!」
「はい、お待たせしました」
「イチゴのパンケーキと一つ、ルイボスティーホットにアイスココアをお願いします」
店員は注文を確認して戻って行った。
注文したあと一瞬間を空けて、僕は尋ねた。
「あのさ」
「え?」
「背の低い子で、自転車乗ってる、ほら、君の彼氏の、えっと、そう、東堂だったっけ?」
「東堂くん、知ってるけどね彼氏なんかじゃないよ!」
「雪は自転車速く走れる人、憧れちゃう、なんて言ってないよね?」
「……言ったかも⁈ 小学生の頃、春風が自転車に夢中だったから」
「なるほど、それで彼は関東随一になったと言うことか——でも、笑えないな。真剣で前向きなや奴なんだな」
「なに独り言、呟いてるの?」
「まあ、独り言だから気にしないで」
暫く海を見ながら、たわいもない会話を続けた。
「お待たせしました」
「うわっ、美味しいそう!」
「そうだね」
「写真撮るよ、春風、笑って!」
なんか恥ずいな。
パンケーキか、パフェとか甘いの嫌いじゃない、僕は甘党か? しかし、美味いな!」
「本当美味しいわ」
と言ったあと、雪が語り出した。
「私ね、春風のこと好きだよ。初めて会ったあの小さな頃からずっと。そして、パパに春風と次はいつ会えるかって何度も聞いていたの。あなたのお父さんとうちのパパは、二人が大人になって結婚してくれた良いのになって言ってたから、私は春風のお嫁さんになるんだって思っていたの。今も思いは変わらないわ」
「それ、僕も覚えてるよ。僕も雪をお嫁さんにするんだって、言ってたね」
時間は過ぎ、どれくらい思い出話に笑い合ったのだろう。
「そろそろ、帰ろうか?」
「ええ、そうしましょ」
夕暮れ時、春風の二歩後を歩く雪。海道路の歩道を暫く歩いた後、階段から砂浜に出ると、雪は春風に駆け寄り、左腕にしがみつくように身体を引き寄せた。
「これからは、ずっと一緒にいられるね……」
僕には雪の気持ちがよく分かる。
雪は昔から一途なところは変わっていないから。
そして、しばらく歩くと鎌倉学院前駅が見えてきた。
春風 随分と変わったね?
雪 それ言うなら、綺麗になったねでしょ?
店員 次回「キス」
春風 それは恥ずくて言えない!