第211話 あざと可愛いし妹
「あれ、ちょっと見て」
とアトラクション待ちで並んでいた結奈が何かに気づく。
長蛇の列に退屈気味であった春風は、水を得たようにその刺激に飛びついた。
「どこどこ?」
紗矢香が先に気づき、その先を指差した。
「ん? エスハニの撮影?」
「あの子、妹の詩織ちゃんじゃないの?」
と目を凝らしながら紗矢香は春風に聞いてみた。
「まさか?」
昨日、動画は撮影し終えているんじゃ?
違うの?
でも、エスハニって立て看板あるし、やっぱそうなの?
「撮影終わりになります! お疲れ様でした」
撮影を仕切っていた女性スタッフが、そう声を張り上げた。
「詩織ちゃん、あざと可愛い笑顔がなかなかだったよ」
「ありがとうございます」
撮影を終えた詩織は、スタッフに守られるように現場を離れていった。
「あれは確かに詩織だ。そして付き添っていたの、母さん?」
「ええ? 春風くんのお母さん?」
と紗矢香は慌てて見返した。
「覚えてる? 詩織の側にいた黒髪ボブヘアーで黒のブラウス着た人」
「うん、いたいた」
「あれが母だよ」
「えっ? あの人がそうなの?」
義理母だけどね。
「こっちに来てても連絡もなしさ」
「今回は急な話だったんじゃ?」
と紗矢香が庇うように言葉を足した。
「……じゃ、そういう事かな?」
と紗矢香の言葉に合わせて、春風はさらりと流した。
その後、アトラクションを五つ周り、十九時のダンスパフォーマンスパレードを前に早めの夕食に入るため、三人衆はモグモグストリートで有名なイートインが用意されたオムライス専門店に足を運んだ。
「私ちょっとだけ寄り道してからお店に行くから先に行っていて」
とふたりに声がけをした紗矢香は、お化粧直しも兼ねレストルームに向かった。
春風と結奈は店前で並びながら、詩織の話に戻っていた。
「早乙女くんの妹さんて、エスハニで仕事してるの?」
「まあ、どう言う訳かそうなってしまってさ」
「凄いことよ、それ」
「まあ、やってるのはのクロスハニー、略してクロハニのモデルなんだけど、エスハニが手がけるなかでも、僕らミドルティーンをターゲットに絞った、ハワイアンブランドとのコラボブランドらしいんだ」
「でも、なぜ詩織ちゃんがモデルに?」
「それがね、この間の高等部選手権の中でスカウトマンの目に止まったらしいんだ」
「中等部生なのに?」
「そう、あとここだけの秘密ね、紗矢香さんもモデルにスカウトされたんだけど、彼女は頑なに断ったんだ」
「へー、そうなんだ。スカウトされるなんて、女子としてはちょっと羨ましい話だね」
「常盤さん……」
「なんてだよ、早乙女くん。正直言って羨ましいけどね、紗矢香さんとか詩織ちゃんなら選ばれて当然だと思うしさ……」
一方、紗矢香はレストルームで化粧直しができるスペースに入り髪を整えて始めると、隣の鏡越しに感じた視線に、チラリと目を合わせ驚いた。
黒髪ボブの黒ブラウスってまさか?
春風くんのママ?
「ねぇ、あなた、ひょっとして鎌倉学院の神楽さんじゃなくて?」
「え?」
なぜ、知って見えるの、私のことなんか?
「紗矢香さん、でいらしたかしら?」
「あっ、はい」
「初めまして、春風の母親です」
な、なんか緊張しちゃう。
「初めまして、神楽紗矢香と申します。春風くんに……」
「あなたは二年生よね。春風とはどんなご関係なのかしら?」
いきなり辛辣なお言葉いただきました。
「私たちは、まだ、その……」
「詩織さんから送られてきた卓球大会ですか、優勝の時の記念写真の中に気になる女の子がいましてね、それがあなたでしたの」
「私が、気になる女の子……ですか?」
「春風さんはあなたに視線を向けていたわ。知っていたかしら?」
「そうなんですね」
「あなた、見ていないのかしら?」
「はい」
と春風の母は、スマホを取り出し紗矢香にその写真を見せた。
「あっ、本当ですね。ふふふ」
その吸い込まれるような可愛らしい笑顔を見せた紗矢香に、春風の母はこう話した。
「もし嫌いでなかったら、これからも春風さんのこと、気にかけてあげてもらえないかしら?」
と紗矢香には想定外であった嬉しい言葉がかけられた。
「あっ、はい」
「今日はひょっとして春風さんもこちらにいらしてるのかしら?」
「来ています」
「そうなのね……」
「お母さま、春風さんに会って行かれたら……」
「会わないわ。あの子は私を遠ざけるようにしてるみたいだから」
「春風くんもお母様のこと気にしていましたよ」
「それはどうだかわからないけれど、これまで私はあの子といい関係を作れていなかったから、仕方のないことなのよ」
「……」
春風の母は改めて紗矢香を見やり、
「春風のことよろしくね。それとここで会ったことは話さないでね」
と言ってレストルームを後にした。
お母様、なんだか寂しそうに見えたな。
一方、店先で並んでいた春風らは、店から出てきたお客さんの中に詩織を見つけた。
「おう」
と春風は声をかけたが、その言葉は撮影スタッフとの会話に埋もれしまい、春風は気づかれることなく詩織とすれ違った。
「まっ、いいか」
と呟いたところに紗矢香が戻ってきた。
「お待たせ! おふたりさん!」




