第208話 ホワイトカラーと仲良し三人衆
今日は千葉旅行の初日です。
さて、意気のあった紗矢香、結奈と春風は、東京ドリームランドに向けて出発しました。
JR小田原駅から乗車した結奈とJR藤沢駅で待ち合わせるため、春風と紗矢香は江ノ電鎌倉高校前駅から藤沢駅へと向かっていた。
「ガタンゴトン、ガタンゴトン……」
「平生は通勤通学のシーンで大事な交通網として役割を担い、休日には湘南風情が味わえる鉄道、それがレトロ鉄道、江ノ島電鉄」
「ふふふ、乗り鉄さん見たいだね」
「いやあ、これは江ノ電運転手の最上阿良隆さんがよく口にする言葉なんだ」
ふたりは左手に映る海岸を眺めながら、しばし湘南風情に酔いしれた。
そして藤沢駅では、ラインで知らされていた結奈の乗っている三両目の車輌に、ふたりは飛び乗った。
「いたよ、結奈ちゃん」
「あっ、おはよう、紗矢香さん、早乙女くん」
「おはよう結奈ちゃん」
「おはよう」
ここで改めて春風は気づいてしまった。
「ふたりともなんと言うか……うん、お洒落でカッコイイね」
これは自身のファッションコーディネートが彼女たちとは釣り合っていない、ダサいことを自覚した故の言葉であった。
「系統は確かに違うかな?」
と紗矢香は優しく語り、
「結奈ちゃんも私もY2Kだよね。春風はノームコアって感じね」
「ノームコア? それは何なの?」
と春風はダサいと思った格好に何か光が差したように感じるその言葉に、ビビットに反応した。
「ハードコアが過激で派手なファッションとすると、その対極にあるのがノーマルコア、これをノームコアと言って、無地系ファッションの極みと言う感じね」
「それは何か嬉しい感じがするカテゴリー感あるよね」
「ストレートブルージーンズに白無地Tにカーキの襟付きシャツは、ノームコアその物じゃないかしら」
と結奈も春風のコーデを評価して見せた。
「結奈ちゃんはショートパンツに夏でも行ける素材のワイドサイズのインディゴジップアップパーカーを着込み、黒キャップにヘッドホン、厚底ショートブーツのまさにY2Kね」
「紗矢香さんはローライズのセミフレアデニムにお尻までスッポリのオーバーニット、ライトブラウンのキャップに白の厚底スニーカーもZ世代(2010年代生まれ)に人気のコーデ、素敵です」
と言いつつも、結奈は何より紗矢香のスタイルの良さに魅了されていた。
「ねえ、二人とも……」
と急に春風がまた何かに気がついたように、小声でふたりに話しかけた。
「周りの乗客がふたりのことチラチラと見ているよ」
「春風くんはよく気がつくんだね」
と紗矢香は心配そうな顔つきになった春風にそう言ったあと、
「こう言うのはいつものことだから、気にしないようにしているわ」
とサラリと気づいていたことを伝えた。
「なるほど、いつものことか……」
これだけ素材が良くて洋服の着こなしもカッコいいと、注目されて当然か?
逆に見向きもされないことの方が、大問題なのかも知れないか?
「ねえ、早乙女くん、あなたこそ気づいてる?」
「ええ、何を?」
「さっきから周りの女子高生が、ジーッとあなたを見つめているわ」
と灯台下暗しな春風に、結奈は小声で話しかけた。
「常盤さん、もちろんその視線に気づいていない訳ではないが、多分そうではないよ」
「ん? どう言うこと」
と結奈は切り返した。
「君たちふたりに僕が不釣り合いだと訴える目線だよ、あれは……」
そこに割って入った紗矢香が、
「じゃあ春風くん、着せ替え人形になって見る?」
と春風に問いかけた。
その言葉に反応した結奈も、
「いいわね、紗矢香さん。いっちょやっちゃいますか?」
「え?」
三人は到着した東京駅で一度下車し、紗矢香と結奈は意見が一致した場所へと春風を連れて行った。
「ターヘルアナト……?」
「へー、知ってるの?」
「いや、解体新書ってことだよね」
「なる。今ね、Y2Kやストリート系の発信基地と呼ばれるお店なの」
「女子だと、コスパや機能的なミレニアル系(2000年代に流行ったファッション)のエスハニのようなプチプラ(イス)ブランドが人気だけど、男子だとこのヘルアナが人気なのよ」
と結奈が解説をしたあと、ふたりは店内へ春風を連れ込み、店員を捕まえコーデをお願いした。
しばらくして、春風は衣装室から姿を現した。
「うわぁ」
早乙女くん、超イカしてるじゃん。
本当、惚れちゃいそう!
「春風くん、いい感じだよ」
これなら一緒にいても浮かないかしら。
とふたりは思い思いに感嘆した。
一方、春風は着慣れないファッションに気持ちがついていかないのか、照れた感じでこう言った。
「これ、確かにイケてるって感じするかな?」
そして、コーデをした店員から解説が入った。
「ワイルドシルエットが特徴の黒のカーゴパンツに、オーバーサイズの極ふわニットサバトラカラー、シルバーのスモールリングのチェーンネックレス、足下はモノトーン調のトレッキングシューズをルーズに合わせてみたわ。短髪でサラ艶髪のイケメンな彼のイメージをモノトーン調ストリートでクールに表現するとこんな感じですね。素材がいいから、小顔ボーイがいっそう際立ちますね。うちのモデルになってもらいたいくらいよ」
「そんな……」
「一枚写真いいかな? 店内に飾りたいんだけど……」
「どうぞ」
思わぬ寄り道で、春風はオシャレさんに早替わりしたのだ。
しかし、この格好に慣れない春風は、駅地下を少し俯き気味に歩いていた。
それに気づいた紗矢香は春風の耳元で呟いた。
「素敵だよ」
通り過ぎる店のウインドウに映る自分の姿を見た春風は気分が明るくなって
「いい感じだ」
と呟いた。
そう思った瞬間、ウキウキした気持ちが湧いてきて、動きから硬さが抜けて「着せられている」が「着こなしている」に変わり、ようやく春風はいつもの自分に戻れたのだった。
「ねぇ、早乙女くんって、めっちゃカッコいいよね。通りすがりの女の子だけじゃなくて、男の子たちも振り返っているの気がついてる?」
との結奈の言葉に、春風は振り返って、
「ファッション一つで見られ方がこんなに変わるなんて、初体験ですよ。オッタキングさんが、現代は見た目重視のホワイトカラー社会だって動画で言ってたのを思い出すよ」
と独り言を呟いた。
「よし、いざ目指すは、ドリームランド」
と結奈は声を上げた。
再び、三人は東京駅から京葉線に乗り込んだが、春風はふとあることに気づいた。
「ところで、みんなやけに軽装だけど……」
「鋭い、結奈も私もホテルと兄宅に荷物を分けて送っておいたから軽装なの」
「やはりそうだったか。でも、仕方ないか。忙しかったしな」
「春風くんは計画的に計算高く行動するイメージがあったけど、少し違ってましたね」
と結奈が一言溢した。
「それは面目ない」
「あはは、はははは……」
そんな雑談をしている内に、電車は舞浜駅へと三人を運んで来た。
「見て見て! 東京ドリームランドよ!」
「ついに来ましたね! ドリームランド」




