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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第七章 人も羨む夏休み
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第207話 クロハニ始動

 箱根スパイラルのメンバーになるためのトライヤルに俄然やる気を見せる春風であった。とそこに意外な電話が入った。

 

「ん? バイブ?」

 テーブルの上に置いてあったスマホが、バイブしたのに気づく。

 自転車練習を終えた後、最上とパーラーで夕食をとっていたところに真田雪からの電話が入っきたのだ。

 

「ちょっと失礼します」

 と言って席を立ち、少し離れたところで電話に出た。

「もしもし」

「もしもし春風? 雪よ」

「おう、どうした?」

「明日のことなんだけど、エスハニ原宿店に午前十時でお願いね」

「ええっ? なんの話よ?」

「詩織ちゃんから聞いてないの?」

「はい、何も」

「そうなの? 明日の時間変更をラインで送ったんだけどな、既読がつかなくて。時間が早くなるけど、明日は詩織ちゃんについて来てもらった方が賢明かも」

「どうして?」

「何と言っても初仕事だからね、不慣れなところに過弱き妹を一人で送り込めないでしょ?」

「そうだね、後で寮に戻ったら話してみるよ」

「じゃあね」

「じゃあ」

 いったい詩織の奴、なんも言わんからな。

 こちらも聞いてしまった以上、同伴するしかあるまい。


 阿良隆との食事を終え、春風は女子寮に戻り、詩織を呼び出した。

「兄さん、なんか顔が怖いよ」

「詩織、明日エスハニ原宿店に行くんだろう?」

 詩織はそれを聞いた瞬間、ホッとした顔つきになりこう話した。

「なーんだ、そのことか。明日はね、母さんが来てくれるんだよ」

 と話した詩織に春風は、

「明日の時間早まって、午前十時にして欲しいってさ」

「あれ? 午後一時からじゃなかったのかしら?」

「さっき雪からの電話で、朝十時に変更したいって連絡があったぞ」

「……それは弱りましたね。明日は朝イチから予定があるみたいで、午後一時ならなんとか出来るって話だったわ」

 詩織は上目遣いに春風を覗き込み、

「お兄ちゃんて、明日空いてるかな?」

 と探るように聞いてみた。

「空いてるよ」

「あー良かった。ママには断り入れておくね」

「ところでだ、明日は初仕事らしいが、いったい何するの?」

「えっ? 何するって雪さんから聞いてないの?」

「あっ、そうね。具体的には何も……」

「プロモーション動画の撮影だよ」

「動画撮影か、じゃあ僕は隅で眺めてればいいのか?」

「まあ、そうね。本当はママにはエスハニとの専属モデル契約の同意者になってもらうはずだったんだけどね」

「僕では役不足か」 

「そうだけど、私初めてだから一人で行くの不安だし、お兄ちゃんが着いてくれていると安心だから」

 役不足に非ず……か。


 翌朝午前十時のエスハニ原宿店一階にある撮影スタジオ「ピクニコ」でのこと。

 

「春風、来たんだね」

「おう雪、昨日はありがとな」

「詩織ちゃんには何度かラインしたんだけど、既読つかなくて」

「確かに僕が声をかけるまで、詩織はまったく気づいていなかった見たい」

「今日は良かったの?」

「まあね、可愛い妹について来てって頼まれたら、むげに断れないしね」

「あっ、あれ見てよ、詩織ちゃんの衣装かわいいと思わない?」

「あれ? もう長袖なの?」

「そうよ、次の秋冬シーズンはもう今から始まるよ」

「なるほど」

「大人でもない、かと言って子どもでもないミドルティーン層を狙った、ハワイ人気ブランドとのコラボなのよ。しかもね、配色はミディアムグレー、タンベージュ、モーヴピンクを基調としたナチュラルカラーに、ミルキーブラウンやナチュラルブラウンの髪とイエベ秋系のお化粧がミドルテーンにバズりそうな予感のする新たな定番ブランドになると思うわ」

「うー、なんだか苦手な分野かも」

「見て、詩織ちゃん、仕草も可愛いし、着こなしも出来ていて、とってもキュートじゃなくて?」

 あっ、確かに。

 妹だと言う先入観がなければ、正直、魅力的な女の子かも?

 まっ、これも彼女にとっての社会勉強になるはず。

 人生は楽しんだ者が勝ちかもね。

 クロハニモデルか、それもよし! 

 僕も、箱スパのトライアルレースを楽しみにするのもよし。

 まあ、やるっきゃないね!

 クロハニは、社名・エスハニのブランドの一つで、ミドルテーンネイジャーをターゲットにしたエスハニの新ブランドである。

 雪はデザイナー、詩織はイメージモデルとしての活躍が始まるのだ。

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