表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第七章 人も羨む夏休み
208/214

第206話 推薦の真意

 ERCに向けられた箱根スパイラルのメンバー推薦枠は、一体どうなるのか?

 そして春風の思いは......

「板長、賄い飯、ご馳走様でした。美味しくいただきました」

 翔子と春風は賄い飯を食べたあと、板長の谷山蔵之助が休む板長室にて声をかけた。

 蔵之助は、半身振り向きこくりと頭を下げ、また向こうを向いた。

 ふたりは食事を終えたあと控え室で別れ、春風は女子寮へと戻っていった。

 

 女子寮は既に帰省期間に入っていたが、春風を含め五名が寮に残っていた。

 言わずもがな、寮長の仕事は帰省期間においては免除されているため、春風は日々のストレスを解放するかの如く自転車のメンテナンスを黙々としていた。

「ふう……やっぱ自転車触ってると落ち着くわ。九月にゃ箱スパトライアルもあることだし、トレーニングも始めたいところだな」

 と旧自転車競技部のクラブハウスの解放日を確認した。

「ええっと、今日はっと、ERCの自主練習日」

 春風は愛車コルナゴV3-RSに乗り、一路クラブハウスに向かった。

 

「おお、久しぶり振りやな、早乙女くん」

 と春風がドアを開けると、小休止していた最上阿良隆が声をかけてきた。

「こんにちは」 

 と苦笑いしながら自転車をスタンドに立て掛け、最上の隣に腰掛けた。

「そう言や、早乙女くんにも話し行ってるかもしれへんが、箱根スパイラルの選手募集があってな、ERCにも推薦の話が来とるんよ」

「知ってます。それで推薦枠には誰を推されるのですか?」

 阿良隆は両手を頭の後ろに組みながら仰反(のけぞ)るようにソファーにもたれ掛かり、視線だけを春風に向けてこう言った。

「プロのロードレーサーとしてやっていけるかどうか? メンバーは皆、その部分が引っかかっているんよ」

「そうなんですか? でも千載一遇のチャンスなのでは?」

 とやや承服しかねぬ気持ちで春風はそう聞き返した。

「僕らにはわかるんよ」

「えっ、何がですか?」

「自分らの身の丈が」

「……身の丈?」

「そうさ、箱スパの選手たちは別格だと言うこと。彼らは勝つと言うことを誰よりも知っているんだ。ほら、僕らが勝ちをイメージする時って、必ず比較しうる相手にどうやったら勝てるかって廟算びょうさんを打つだろう?」

「ええ、まあ」

「奴らの勝ちは周りとの戦いではなくて、常に自分との戦いにあるんだよ。己に勝つことで唯一無二の存在になっているんだ」

「……」

「だから、僕らの世界観では測れない世界に飛び込む勇気が持てないってことなんだよ」

 春風はこれを聞き、阿良隆たちの言わんとすることが少しだけわかったつもりになった。

 しかしながら、春風はこう切り返した。

「でも、我々同様、彼らも同じ舞台で戦う訳ですから、勝ち負けは全て比較の中で完結すること。例え実力が桁違いで、戦っている相手が己であったとしても、所詮は比較により強いものが勝っていると言うことには変わりありませんよね」

「なんか屁理屈っぽいな」

「そうですか?」

「まあ、いずれにせよ個人でトップ取れるくらいの力がなければ、土台にも乗らない話だよ」

「じゃあ、やはり推薦は辞退なんですか?」

「いいや、そうは言っても、そこまでされては引けない男が一人だけいるんよ」

「……天野さんですか?」

「おうよ、兄貴が箱根スパイラルのレギュラーだけに、この推薦、おそらく天野寛を宛にしたものかもしれないな」

「登坂力、確かに凄いですから」

「そや、寛さんは前回ライドでは、堂島との接触による減速で、箱スパの十文字に山岳賞を取られているからな。その十文字がいない穴埋めができるクライマーは寛さんだと眞露は思っているだろうしな」

「最上さん、読み切れてますね」

 市川さんとは見解がまるで違うけど、最上さんの読みは的を得ていると思えますね。

「そりゃ、わかるよ。だいたい推薦枠と言うのも、ERCに対する義理立てで、ヘッドハンティングじゃ寛さんが二の足を踏むことを考えての譲歩策、これが推薦ってこっちゃ」

 なるほど、更に見えてきました最上探偵さん。

 と言うことは、僕に残された箱スパへの道は、トライアルになる訳だ。

「早乙女くん? ひょっとして箱スパ志望だったとか?」

「……そんな話を聞かされたあとだから言いにくいんですけど、チャレンジしたいです」

「んじゃ、うちからのトライアルは天野寛と早乙女春風の両名参加で決まりだな」

 なんで天野さんがトライアルに?

「……どう言うことなんですか?」

 阿良隆は立ち上がってこう言った。

「推薦はトライアルで勝ってからして欲しいとさ。身の丈に合うかどうか、そこが推薦を受けるかどうからしい」 

 天野さんの経歴は知らないけど、相当レベルが高いことはわかっていた。

 そんな彼に、僕は挑んで勝てるのだろうか?

 いや、いやいや、僕だって次のステージを見てみたいんだ。

 だから、諦める訳にはいかないんだ。

「早乙女くん、ローラー付き合うよ」

「あっ、はい、お願いします」

 阿良隆はその後、閉室までの四時間、春風のトレーニングに付き合うことになった。

 

 早乙女くん、君は熱いね!

 皆様、あけましておめでとうございます。

 新春いかがお過ごしでらっしゃいますか?

 今年も楽しく執筆していきたいと思います。

 今後ともご愛読いただけたらなと思います。

 それでは。

     2026年一月元旦  三ツ沢中町より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ