第199話 一気飲み 後編
始まった一気飲み対決。しかし展開は思わぬ事態へと進んでゆくよ。
さすがに炭酸二本を飲んだ後の三本目には「勝負」と言う大義がなかったら、ただの拷問と思えるその行為に、観客は湧き、笑い、なぜかついでに感動すら覚えるのだ。
だからこそ、早食い、大食いは注目してしまうのだろう。
「ついに決着をつける時が来たな、と言いたいが、お前らも気づいたか? 昨年チャンピオンがファイナルにいることを。司会のおっちゃんがさっき勝負前に言うとったわ。ヤバいぜまったく」
と東堂が春風や秀一郎に声をかけた。
「何を言うかと思ったら、東堂よ、ピンぼけしてんじゃねぇよ。これは俺らの実力を試すチャンスじゃねえか? ひよってんじゃねえ!」
と秀一郎は東堂を一括した。
「どちらにしても、彼を倒さなければ真の実力者にはなれないんだ。もはや、我々の争いは不毛と化してしまったのだよ」
と春風がふたりに声をかけた。
そして、勝負の刻を迎えた。
舞台に用意されたテーブルに、衝撃の事実を突き付けられたのだ。
なんと、ファイナルは炭酸を三本一気飲みする設定であったのだ。
この事実に、東堂が意見した。
「ちょい、源氏さん、これ何ですの? 炭酸一本をスカッといち早く飲みあげるのが、一気飲みの美学やなんの?」
「君は……東堂くんだったね? 気に入らなければ、辞退してもらってもいいんだよ」
「あくまで俺らがアタフタするお笑い要素を込みにした、一気飲み大会にしたいんやな?」
そこに、前チャンピオンの男がしゃしゃり出た。
「すまない。私が昨年の覇者、野辺一気とだが、私がこの三本並べを提案した張本人だ」
「野辺さん、あんたは何で三本の戦いを望んだんだよ? 美学がないのか?」
「東堂くんと言ったね、君の言う美学は君の中の価値観である美学じゃないのかね? 普遍的な美学とは言い切れないんじゃないのか?」
うあ、なんか炭酸巡ってどうでもいい話が、無意味に深掘りされていく。
そこに沈黙を決め込んでいた秀一郎が口を開いた。
「東堂、黙って聞いてりゃガタガタと抜かしよって。俺たち一気飲みファイターは、与えられた戦場でしか戦う意義を持たないことを、お前はわかっていない。三本だろうが百本、いや千本だろうが、それと向き合うのが真のファイターだろよ! クズめ!」
秀一郎さん、一喝するなら百本、千本は言い過ぎじゃないの?
クズな言い方してんのはあなたですよ、秀一郎さん。
「失礼! 男東堂、失言になってしまい申し訳ない! この三本一気飲み、受けてやる」
「では、みなさん、この三本を飲み干したものが勝者となるのです」
と司会がまとめると、野辺が物言いたげに、司会者のマイクを奪った。
「みなさん、三本をテーブルおいた理由だけ聞いて下さい。ファイナルに上がる選手は皆強者であり、一本では勝負がつかないから、実はこれらは勝負がつくまで飲み続けるための三本なんです」
え、続けて飲むんじゃないんだ。
完全に勘違いじゃないか、俺、カッコ悪! 東堂一生の不覚。
野辺からマイクを渡された源氏は後出しのようにこう言った。
「ルールでは、一本対決ですから、勝負の判定がつかない想定での三本でしたね。まあ、そう言うことなので、よろしく」
そこに秀一郎がまた物申す。
「お前らふざけんな、三本一気飲みだ! 酷なほど本質に辿り着……」
と言いかけたところに、舞台袖にいた警備員が秀一郎をつまみ出そうとガッチリ腕を掴み、連れて行こうとした。
「俺は勝たなくてはならないんだ……」
と秀一郎は言い残し、舞台袖に連れて行かれてしまった。
そして、前チャンピオン、春風と東堂の三スクネは、炭酸片手にその合図を待つ。
「ピー」
とスタート合図の笛が鳴る。
選手は一斉に炭酸を日に流し込む……。
「決まった……勝者は東堂か?」
えっ、僕じゃないの?
俺が勝ったのか?
チャンピオンのオイラじゃないの?
「ん? 同着ですかね? 仕方ない、二本目行きますか?」
と司会は軽く言い退けた。
「もう一本行きましょうか」
と野辺はふたりに言葉をかけた。
「もう一本、ですか?」
と消極的な春風に、
「当たり前やろ、勝負がつくまでじゃ」
と東堂は言って聞かせた。
「では二本目、よーい、ピー」
と笛が吹かれた。
「ゴク、ゴク、ゴク」
と野辺は二本目を飲み切る。
この時点で春風は飲むのを中断してしまう。
「もうダメ」
しかし、悲劇はその二本目に起こってしまった。
「ゴホ、ゲホ……」
東堂は炭酸を宙に吹き散らしてしまった。
皮肉なことに、その吹き出した炭酸に虹がかかり、なぜか負けた東堂に惜しみない拍手が向けられた。
「東堂選手、マーベラス!」
と司会があろうことか絶賛したのだ。
「あの、優勝したのは、オイラなんだけどさ……」




