第194話 何となく心地よい
出店と言っても、商工会のテントの半分のエリアに、金魚すくいに使えそうな長方形の水槽に水を張って、大きな氷をドカンと沈め、ジュースを冷やしただけの、インスタントショップに違いない。
僕と紗矢香さんはパイプ椅子に座って、日陰で涼んでいた。
「コーラちょうだい」
と現れたのは東堂満やないか。
「東堂」
「おっ、春風やんか。何しとるん?」
「何しとるんて、ジュース販売じゃ。百本こうとけ!」
「嫌やわ、これだから関西人は!」
「何言うてんねん、こうたらサッサとあっち行き!」
「春風くん、ちょいお客様にぞんざいな扱いしてへんか?」
「まぁ、ええわ、東堂くんは何しはりに来てんの?」
「何かいつもと違って、コテコテの関西弁やな?」
「なんか物売ったりしてんと関西弁がしっくり来てな」
「なる。そうだった。今日はな、一気飲みに来たんだ。お前もやるか?」
「一気飲み?」
「冷えた炭酸を早く飲み干す戦いや。お前もやれよ。申し込んどいたるわ」
「勝手すな!」
「知らへん知らへん、おっと、お代はここ置いとくで! ほなさいなら」
と東堂は人混みへと消えていった。
「誰?」
と訝しげな顔をした紗矢香が尋ねた。
「まぁ、通りすがりの変わり者って感じかな?」
「ん? なんか、親しげな感じがしてたけど……」
「一気飲み大会があるんだね、僕、知らなかったけど、あいつ、申し込んどいたるって言ってたな」
「ふふふ、まぁ、いんじゃない、出てみれば? 応援するよ」
応援?
紗矢香さんの?
「いいね、やろう!」
「鼻から炭酸出さないでね」
「またそんなことを言う。出しませんよ、僕は!」
「それは楽しみね、確か十三時からだから、食べた物、もどさないでね」
「こら!」
「キャアー、怖い!」
と紗矢香は逃げて行った。
今気がついたけど、紗矢香さんてこんなにお茶目な女の子だったんだ。
これまでの彼女からは想像がまったくつかないな。
本当に。
「あの、烏龍茶もらえるかな?」
とやって来た兄さんにペットボトルを水槽から取り出して、
「二百円になります」
と言って物を渡し、お金を受け取った。
「ありがとうございます」
そした、お兄さんの隣にいた小さな子どもに、飴ちゃんをあげた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
と子どもは言って手を振りながら、烏龍茶の兄さんに手を引かれて去って行った。
「商売上手ね」
後ろから紗矢香が声をかけた。
少し照れながら、
「こう言うのもあっても良いよねって思っただけだよ」
と一息つきながら、笑みを溢し、パイプ椅子にドサッと座った。
紗矢香も海を眺めるように、春風の隣に椅子を運び腰掛けた。
「なんかのんびりした感じが良いよね」
と長い髪を両手で掻き上げながら呟いた彼女の横顔がクールで、とても穏やかな気持ちにさせてくれた。
東堂くんは多分一人で来たんだろうか?
連れは心の中の真田雪なんだろうか?
一気飲みどうなるんだろね?




