第193話 出店は楽しいかも?
「ザ・湘南ライド」の実行委員会が主催する第三回湘南夏祭りが、この八月上旬の日曜日、腰越海水浴場から片瀬東浜海水浴場にかけて開かれるんだ。
もちろん主催者はサーフィンやロードレースでお馴染みの川崎のおっちゃんなんやけど、夏祭りまで手掛けるとはホンマに驚かされるよな。そいで、昼間は地元の中高大学生に社会人まで集めてバンド合戦、水着美少女コンテストや強炭酸一気飲み選手権、夜は大花火大会と清水の舞台から飛び降りるほどの大金叩いて、まあ豪華な祭りが行われるんさ。
まあ、皆さん、楽しんで行きなされ。
湘南夏祭りにニコニコマートは出店協力を頼まれ、紗矢香と春風はビーチでドリンク販売をすることになっていた。
「ビーチでリヤカー引いて、ジュースの移動販売か。結構重たいし、体力消耗激しすぎるな」
「何言ってんの、男の子でしょ? すべこべ言わずに働いた、働いた、ふふっ」
リアカーの側面に「ジュース移動販売のニコニコカート」と書かれてた貼り紙をヒョイと覗き込んだ春風は、後ろを押しながら笑う紗矢香に向けこう言った。
「これ、やっぱ恥ずくないすか? それに、まだ、日照りも強くないし」
「わかってないなぁ、ひよっこくん。この時間帯はね、まだジュースは売れないわよ、どちらかと言うとね、宣伝兼ねて回ってるのよ。音楽流しながらリアカー引けば、近くにいる人は注目するでしょ」
「まあ、そうなんだけどね。そこまでしなきゃならんのですかねェ? それに大分恥ずくもある」
「春風くん、ならこれが学園祭ならどう思う?」
「学園祭か……学園祭ならこう言うの確かに違和感なしだね」
「じゃあ、今日はどんな日?」
「夏祭りじゃないか、あれ?」
「そう、つまり同じ祭りだよね」
「おっ、なる。店のロゴTに海パン裸足でリアカー引いてたから、なんか恥ずかったけど、祭りか、しかも裏方なんだから、これは極々ありふれた情景。恥ずくない……?」
「ほら、周り見てごらん? ビキニ娘や海パンだけの男子よ、なーんにも恥ずかしいことなんかないわ」
片瀬東浜海岸までリアカーを引いたふたりは、夏祭りの立て看板が作る日陰辺りで少し休憩を取る。
「僕はこのために休日駆り出された訳だけど、紗矢香さんは店の方は良かったの?」
「そうね、カオルさんが移動販売の手伝いに行ったらって何度も言うから……」
「そう、なんだね」
「勘違いしないでよ、仕事をサボりたくて来たんじゃないからね」
「はいはい、わかってますとも」
「ところで、こないだの選手権の旅行券だけど、まだあるよね?」
「あゝ使わずじまいだよ」
「前に話した夏の旅行なんだけどね、千葉に行こうって結奈ちゃんとは話できてるんだけど、いいかな?」
と上目遣いに春風を覗き込んだ。
「紗矢香さんの行きたいところなら、もちろん問題なしです」
こう言うことには頓着ないのね。
「では、東京ドリームランドと私の兄宅に行きましょう」
「ドリームランドね……兄宅? ねえ、兄宅とは紗矢香さんの?」
「ええ、兄貴一人暮らしだから、みんなが来てくれると喜ぶはずよ」
紗矢香さんのお兄さんてさ? まぁ、いいか。
「了解です。日程は?」
「ホテルの予約が取れた日に、スケジュールを合わせようかと」
「これからなの?」
「今、キャンセル待ちよ、結奈ちゃんに一任してるわ」
「キャンセル待ちね、もう夏休みだからね。三部屋取るの大変だよね」
「何言ってるの? 三部屋なんて無理に決まってるでしょ?」
「なるほど、失敬、二部屋だね」
「またまた、一部屋よ。そんなキャンセルいつまで待つつもりなの?」
「ええ? じゃあ三人で寝るつもりなの?」
「春風くんは寝袋借りてね」
「何、それ?」
「まさか、うら若き美少女たちと川の字にでもなって、お休みしようだなんて思ってる訳ですか?」
「そう言われると……言葉に困るな」
「ふっ、ふふふっ、ごめんごめん。ちゃんと二部屋備えた部屋を押さえるからね、あははは」
「ちょっと性格悪いんでは?」
「まあ、そう言わないでよ」
「……あは、あははは」
「では、元の場所まで戻りましょうか?」
「ええ、お嬢様、お乗り下さいな」
「遠慮いたします」
「あははは……」
ふたりは腰越海岸の方へリアカーを引いて戻って行った。




