第190話 このダービーにチャンスはあるの?
第三ヒートはその後、翔子とバイス選手の一騎討ちの様相を呈していた。
——あーやだ。
サイズが上がるとバイスのテクも冴えてきて、得点が跳ね上がっていくわ。
私のアドバンテージもなくなり、三本やって暫定二位。
世界の壁を感じちゃうな。
ドミニカの黒豹さん。
フィリス女学院の留学生トリオの中でも、ズバ抜けた身体能力を持つバイスは、他を寄せ付けないオーラをまとっているように見えてしまうわ。
そうね、開き直りも大切なスキルかもね。ここでの勝負はラウンドアップすることが第一だから、あとは体力の温存に努めるとしましょうか。
第三ヒートは、バイス選手と葉山選手の独壇場となり、ラウンドアップは大筋確定し時間を迎えた。
「ファーン」
第三ヒートの終了を知らせる合図が鳴り響いた。
見込みどおりバイス選手と翔子さんが8点代を三本マークし、ラウンド2へコマを進めた。
第四ヒートは各校主力選手がエントリーしておらず、7点代前半で勝敗が決まる戦いが繰り広げられた。
ラウンド1が終わり、ラウンド2にコマを進めた選手は次のとおりだ。
鎌倉学院
風間鈴香 選手
佐伯セレナ 選手
葉山翔子 選手
神保七奈 選手
フィリス女学院
リナクルガー 選手
サラボイジャー 選手
ラムHバイス 選手
霧島玲美 選手
各校共にラウンド2には、四名の選手が進出することになった。
そして、審判長の夏川氏は、台風接近に伴い、このダービーマッチの終了を早める決断を下した。
「大会審判長の夏川より報告いたします。台風の接近に伴いこの後の波の状態が荒れてくると予測されます。そのため、選手の安全を最優先とし大会の延期、或いは大会の中止などの検討をいたしました。結果、一部ルールの変更を行い残りの行程を短縮することと決定いたしました」
「具体的には、ラウンド2をファイナルラウンドとし、更に各選手一本の試技を行い、チーム事に選手の得点を集計し勝敗を決することとします」
試技の順は次のよう示された。
❶葉山翔子 選手
❷神保七奈 選手
❸ラムHバイス 選手
❹霧島玲美 選手
❺風間鈴香 選手
❻佐伯セレナ 選手
❼リナクルガー 選手
❽サラボイジャー 選手
「一本勝負ってことですね」
と春風は呟いた。
「まっ、大会が中止になるよりはマシかもね。延期ってのもあるけれど、関係者への負担がかかるため、運営側は避けたいところだものね」
と萌が皮肉った。
「かなりサイズがあるから、この戦いはいかにビビらず乗れるかが、勝敗を分かつことになりそうですね」
「確かにビッグサイズの波で育っただろうフィリスのバイスやリナ達には、ダンゼン有利な展開が待ってるんじゃないかな? でもね、試技が一本だけと言う条件が、想定外な結果を導いてくれるかも?」
「それはどう言うこと?」
「一発勝負にはチャンスがあると言うことよ」
「鎌倉学院にもチャンスはあると。嬉しい誤算が待あると言うのですね」
「ふふふ、寮長は普段私たちサーフィン部がどんな練習しているか、知らないでしょ?」
「何、その含みありげな表現は。教えて下さいよ」
「そうね、寮長には教えてあげましょうか。サーフィン競技部の練習方法を」
「教えて教えてよ。北山さん」
萌は咳払いを一つした後、語り始めた。
「どんなコンディションでも最高の一本になる波を見つける練習メニューが今年度から取り入れられているの」
「最高の一本、ですか……」
「そうよ、岩下先生がテーマとしているのが『波の性質の見極め』なの。サイズや形だけを求めていても波の性質を知らなければ、最高の一本には出会えないの」
「それは、それは難しいお話で……」
「セットの周期やブレイクの強さを推しはかり、切れた波・速い波を捕まえることが、鍵になるの。それを叶えるには、環境要因の読み取りも重要になるの」
「環境要因?」
「わかり易く言えば、風向き風速から波質を見極め長く乗れる波を予測したり、潮の満ち引きから波のブレイクする位置や形を予測するの」
「なるほど」
「そしてエネルギーが最も高い波がブレイクするピークがどの位置なのかを見極め、そのショルダー(波の法面)ができる場所にパドルして、最高のライドに繋げていくの。これを鎌倉学院ではさまざまなビーチで練習してるの」
「だから、北山さんはチャンスと捉えているんだね」
「そうよ、サーフィンは自然を克服するスポーツなの」
そんな感じで萌と春風が話している間に、選手たちは、既に沖に出て波待ちに入っていた。




