第189話 アーリーウープ
「ファーン」
第1ラウンド第三ヒートが始まった。
「それでは第三ヒートでありますが、鎌倉学院からはゼッケン白の葉山翔子選手と、ゼッケン緑の八重桜小春選手が、フィリス女学院からはゼッケン赤のララHバイス選手とゼッケン青の片倉リナ選手がエントリーされております」
なんだろう?
いささか緊張してるのか?
翔子さんを見ていると、
「翔子さんは、あんたたちとはモノが違うんだ」
とか、
「あんたたち、いいから失敗し続けなさい!」
とか、
「翔子さんより高い得点取ったら許さへん!」
とか、
まあ、そんな寄った感情を持ってしまうのは、身内のような存在だからなのか?
はたまた、リスペクトしているからなのか?
どちらにせよ、母校応援とかではなくて、単に僕は翔子さん側にいる人間なのだと再認識できてしまうんだな。
「第三ヒート始まりから、ゼッケン白の葉山選手とゼッケン赤のバイス選手がプライオリティをかけて、激しいパドル競争を繰り広げております。どうやら優先権を取ったのは、バイス選手のようです」
悔しい!
——先行かれちゃったわね。
まあ、いいわ。
見てやりましょうか、ドミニカの黒豹と呼ばれるバイスのライドを。
「ラムバイス選手が、おお、セットに乗りました。キックがダイナミックですね。カットバックしてからしっかりレールを入れてボトムターン。余裕さえ感じるほどのボディバランスとレスポンスの良さで反転したあと、トップに駆け上がりながら大きなスプレーを上げて、何事もなかったかのようにフェイスを滑り降りた。うん、まったくもってその優雅さに、これがヒートであることを忘れてしまう」
「ねえ、寮長」
「あ?、あれ、北山さん」
「あれ、ってこんなキュートでセンシーなJKを前にして随分なリアクションじゃない。ははーん、まさか……照れ隠しなの?」
おいコラ待て!
「何よそ見してんの? 翔子姉さんのテイクオフよ」
「あっ、もう、しまった!」
「いい滑り出しよ、ほらグーフィーいい波の形だわ」
「エアー……リバースしたのか? グーフィーでバックサイドでグイグイスピード上げて、ボトムからリップに向けたボードをクルッと360度回旋したあと、レールターンが決まりましたね」
何なんだ、あのクルッと回った技は?
あんなの見たことない。
と驚く春風に一言アドバイスが飛んできた。
「トリッキーな技で、バックサイドのアーリーウープ(360度回旋)よ」
「アーリーアープ?」
「そうよ。アーリーアープ。通常は180、ランニング、180の行程で完成系なんだけど、翔子さんはそれを何の気なしに一度で回り切ってるところが凄いんです」
「ゼッケン赤 7.8」
「ねえ、いきなりエクセレントか。第三ヒートもレベル高いわ。サイズも上がっているし、まだまだあるわよ、驚きのライディングが」
「段々と波のサイズが上がってきてるのも、台風スウェルの影響ってことなんだよね?」
「そう言うことよ」
「ゼッケン白、8.0」
「またまたエクセレント、ハイレベだ」
「これはバイス選手と翔子先輩の勝ち抜けが確定ね」
「異論なし、サイズもモンスター級になってきた茅ヶ崎西浜で、どこまで大会が続行されるかが見ものね」
「中止もあり得るんですね?」
「あるよ。安全第一だからね」




