第19話 頑張れ翔子!
会場の視線ははテイクオフを待つ翔子に集まった。
「……さあ、来るわよ!」
「パドリングからテイクオフ、アップスダウンからリップレールまで登って、と降りると見せかけてリップオフ、決まった。まだ行ける、そっ、ボトムターンから、勢い付けてエアリアル、いいわ、ワイドにエアー決まった、よし!」
「翔子さん、クールすぎましたね」
岩下コーチの拍手に周りも大きな拍手を送った。
「二人とも、やるわね」
「そんなに凄いんですか?」
「そうよ。一波一発勝負で難易度が高い技を成功させたのよ」
「で、ですよね」
あっ、風間選手と抱き合ってる。
「讃えあってるんですね」
「そうよ。二人はライバルだけど鎌倉学院の仲間であり、私の教え子なのよ。讃え合えるって、素晴らしいわ」
「さぁ、葉山選手、素晴らしかったですね」
「ありがとうございます」
「最後のエアーが対空時間と言うより、対空距離が素晴らしかったですね」
「はい、うまく飛べましたね。最高でした」
「葉山選手はこの後、九州で行われる大会へ招待されていると聞いてますが、活躍を期待してます。
それでは、葉山選手にもう一度、盛大な拍手をお願いします。……ありがとうございました」
「春風くんはこの後はどうするの?」
「翔子さんと帰ります。」
「そうね、彼女のそばにいてあげてね」
「どうも、ありがとうございました。失礼します」
そう言って、一旦席を立った。
爽やかな青年だこと。私も、独り身。あー、誰か素敵な王子様、現れないかしら……。
「姉さん!」
「あっ、春風、見てくれた?」
「凄くカッコ良かった」
「ありがとう」
「じゃ今からシャワーして着替えてくるから、十五分後にあそこのりんご飴の店の前で」
「あそこのりんご飴の店で」
りんご飴か?
懐かしいな。
夏祭りか。
昔、姉さんとりんご飴を代わりにばんこに舐めたりしてたな。
翔子さんの父さんてどんな人なんだろう?
うちの父さんより優しいんだろな? きっと。
お母さんはいるのかな?
きっと優しい母さんなんだろうな。
「ただいまから、第一回戦を開始します。選手の方は待機上でエントリーを行ってください!」
大会も本番が始まるか……
「待たせたね。春風」
「お疲れ様」
「ありがと」
「サングラスなの?」
「今日は有名人だから、髪を下ろしてサングラスして、まぁ、バレても仕方ない程度の変装だけどね」
「そんな感じだね」
「やっぱ、そうだね」
「ねえ、りんご飴食べようか?」
「そうだね」
春風は店のおじさんにりんご飴をニ本頼んだ。
「兄ちゃん、こちらのお嬢さんの分はサービスしとくよ。なかなかカッコいいライディングだったぜ!
」
翔子はサングラスをカチューシャのように髪に挿し、ニコッと笑いながら「ありがとう、おじさん」と言ってりんご飴を受け取った
翔子は「変装やっぱバレてたか」と呟きながら、またサングラスをかけた。
「サーフボードのこと聞いたよ」
「パイセルのこと?」
「そう、有名な人が作ったショートボードなんだね」
「パイセルね。今は日本でもお店があるわ」
「へー」
「ねえ、コーチと何話したの?」
「波とサーフィンについてかな?」
「聡子コーチって、詳しいでしょう?」
「そうだった。姉さんの動きをよく分かってるみたいだった。なんか湘南のアイドルサーファーだったみたいだよ」
「謙遜だよ、それは。コーチは二年前までプロサーファーだったんだから。しかも引退する前までは、日本代表だったのよ」
「あの方はルックスもスタイルも美しくて、憧れのスポーツ女子の部門で三年連続一位だったんだから」
過去をひけらかすこともなく、聡明かつ美しくか、それで憧れの的か。
「恋人はいないの?」
「多分ね」
そんなコーチネタで盛り上がり、二人は海岸を後にした。
翔子 りんご飴って、甘くて美味しいね。
春風 りんごが程い甘さになるから良いんじゃ?
翔子 じゃあ、飴は私が舐めるから、待ってて!
春風 それじゃあ味気ないよ!
翔子 次回「真実」、よろしくね!
春風 真実は飴にコーティングされたりんごのよう。
翔子 気になるわね、真実が!