第17話 翔子はアイドル?
「ええ? どう言うことなんですか? 四位って?」
「話してなかったのね。翔子は、風間鈴香と同じ鎌倉学院のサーフィン競技部に所属する全日本ランカーなの。昨年だけでも年間通じて百日程度は大会遠征に出かけていたわ」
「えっ?」
「うふふふ、翔子らしいわね。何にも話してないのね」
「彼女はプロなんですか?」
「いいえ、ノンプロよ。だから遠征費は自分持ちなの」
「そうなんですね」
「彼女の実力と知名度ならスポンサーがついてても可笑しくないのにね、なぜかしら、断ってるみたいなの。学校にもボードメーカーがオファーに来てたみたいだけれど、あっさり断ってるみたいなの」
「ひょっとして、ウエットやボードブランドにこだわりがあるとか?」
「いい読みだわね。確かに彼女のショートボードは世界最高峰のシェーパ(職人)のPYSELのお手製だから、他のボードへの乗り換えは考えられないだろうしね。貿易商をしている父からのプレゼントだと言っていたから、なおのこと乗り換えが難しいのかもね」
「貿易商、ですか?」
あれ? うちの親父も海外出張だってよく仕事で行ってたけど、どんな仕事してたのか分かんないや。
「でもね、一ヶ月前に、その父から資金援助が受けられるようになったって、喜んでいたわ」
「遠征費とか、どれくらいするんですか?」
「そうね、彼女の成績なら国内戦だけなら最低年間百万円あればやりくりできるはずだわ」
うちの親父は、いつも子供の教育費で生活が大変だと溢してたからな。家庭によって違うんだなぁ。
「風間選手に大きな拍手! ……はい、ありがとうございました。それでは続きまして、葉山選手、お願いします」
とその時、観戦席から大きな歓声が上がった。
「翔子ちゃーん!」
「翔子さーん!」
「お帰り! 待ってたよ!」
「翔子ちゃーん!」
観戦席に向かい、翔子は両手を大きく振りながらお立ち台に上がった。
「皆さーん、ただいまー! 葉山です!」
観戦席では更に大きな声援が飛び交う。
「応援ありがとうございます!」
歓声が止むのを待ち、話を続けた。
「えーっ、一年振りですね!」
「待ってたよ――」
「翔子、帰って来ました!」
「お帰り――」
「皆さんに会えてとても嬉しいでーす」
これはまさにアイドル級だ。
「今年はデモンストレーションってことで緊張をしてたけど、みんなの声援で今、この緊張感が、いい集中力を生み出してくれそうになっています。先輩である風間選手に負けないように、クールに決めたいと思います。また、この大会は来年度から、日本連盟の公認大会になり、全国から沢山の有名選手が集まってくると思います。私たち地元勢も頑張りますので、楽しみにしていて下さいね」
あれが翔子さんなんだ。超かっこいい!
「はい、ありがとうございました。風間選手と言い、葉山さんと言い、ナイスなマイクパフォーマンスどうもありがとネ! お二人は地元鎌倉学院の学生さんでもあるから、みんなも今後の活躍、応援シクヨロー!
それではお二人には準備に入っていただきましょう!」
大会のルール説明を挟み、マイクパフォーマンスが続く中、大会委員長の川崎さんが、目の前を通りかかった。
「あれ? 早乙女くんじゃないの、応援かい?」
「はい、見に来ました」
「あっ、聡子ちゃんじゃないの」
「ご無沙汰してます。川崎さん」
「聡子ちゃん、いや、そんな風ないい方は失礼だね。岩下コーチ」
「そんなことありませんわ。可愛い呼ばれ方していた時代が懐かしいわ」
「そうだね、聡子ちゃんがあのお立ち台に上がると、すごいラブコールが起こったもんだ。あっ、いけねぇ。もう失礼しますわ。そうそう、市川先生から連絡があって、ERCからサイクルライドに出ることになったって?」
「はい、よろしくお願いします」
「君の走り楽しみにしてるよ。じゃあまた」
「ありがとうございます」
岩下は目を丸くして春風に質問を投げた。
「川崎さんを知ってるんだね?」
「はい」
「あの方は、湘南地区では知らない人はいない地域活性の功労者なのよ」
「そうなんですか?」
「元々茅ヶ崎市の資産家で、藤沢市内で運送業を生業としながら、自転車競技やサーフィンを湘南スポーツとして全国に発信するために、十年前『湘南ライド』をスタートさせたのよ」
「凄い人なんですね」
「ええ」
「あの、先生も、このサーフライドで、あのお立ち台に乗っていたんですか?」
「そうね、懐かしい話だわ。私にもあんな頃があったわね」
「プーン!」
会場が静まり、風間選手と翔子は、引き波に乗って沖へとパドリングを始めた。
鈴香 翔子ちゃん、目立ち過ぎじゃない?
翔子 そうですか? やり過ぎでしたか?
鈴香 実は、私も目立ってみたいけど、勇気なくて。
翔子 女は度胸ですよ、先輩!
鈴香 次回「流石ね、風間選手!」
翔子 私はサーフでもハイパフォーマンスを決めてや るんだから!