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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第一章 湘南の春休み
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第14話 幼い頃の記憶

 

 静かに耳をすませば、窓の外から不規則に聞こえてくる波の調べ。ゆっくりと目を閉じ、自分の記憶に残る母と姉のことを思い出し、また、消えてゆく。あの幸せだった幼少期の記憶を辿る。

 僕には二つの違う家庭での思い出がある。

 父を起点に幼少期に実母が継母に代わり、姉が異母妹に代わる、その家庭環境の書き換えを乗り越えて、ここまで成長してきた。

 今の時代なら、僕みたいな経験をして育った人も少なくはないはず。

 ぎゅっと抱きしめて、苦しくても離してくれへんかった母や姉との別れ間際の温もりや感触が、消えたりしないでと願う毎日を送っていた。

 継母と連れてこられた妹は、愛に溢れた日常を、父との三人の中で育んでいた。

 一方、僕は、継母を心で拒絶していても、父には気取(けと)られぬよう振る舞う日々を過ごした。

 しかし、継母は僕には冷たく当たり、言われのない仕打ちを、僕は受け続けた。

「平気、平気」って自分に言い聞かせながら。

 僕が父に買ってもらった大事な自転車に倒されたり、空気抜かれたり、見えないいじめを受けたよ。

 でも、褒めてもらったこともあった。

 妹が車に跳ねられそうになった時、自分が身代わりになって事故に巻き込まれた時だ。

 とても感謝されたよ。

 しばらくの入院生活と引き換えにね。

 何かに付け、継母はいつも当たり散らす。僕が気に入らないのだ。

 中学に上がると、更に辛く当たられたよ。

「どれだけお金を注ぎ込めば、あんたは賢くなるんでしょうね?」って。

 僕は行きかけた学習塾を辞めて、一人ひたすら部屋に籠り、中学課程のカリキュラムを一年でやり終えた。

「うちの子は秀才よ」って継母が周りにひけらかすようになってからは、中三までに高ニの学習内容が学べるよう、父に僕の塾代を頼んでくれていたっけ。

 だから、継母に感謝するとしたら、愛情は与えてもらえなかったけど、優秀な自慢の息子に仕立て上げてくださったこと。

 故に今がある。

 自転車も全国模試で上位にいることを条件に、自転車競技をしているクラブチームに通わせてくれたのも継母だった。

 厳しい人だった。本当に厳しい人だった……

 よく出来たねって、ギュッと抱きしめて欲しかった。

 

 

 羞恥心

 

 

「ねえ、春風! どうしたの? 辛そうよ」

「いや、何でもないですから」

「そお? それならいいけど」

「うん」

「そろそろ寝ましょ」

「そうですね」

 

「春風、一緒に寝よっか?」

「一人で寝ます」

「固いこと言わないの」

「間違い起こしたらどうするんですか? 一応、血気盛んな高校生ですから、我慢できなくなるかも知れませんよ」

「私、いけない事されちゃうの?」

「え?」

()()()()()

 間違いなく妄想だ、これは。

 

「ねえ、春風……どうしたの? 辛そうよ」

「いや、ぜんぜん辛くないですから」

「そお。ならいいけど」

「ほんと心配いりませんよ」

「そろそろ寝ましょ」

「では。おやすみなさい」

 

「春風、一緒に寝よっか?」

 えっ、同じやん、なんで? そうなるの?

 結局、これは妄想なんだ。展開がどうあれ我がままな顛末には変わりないのか?

 抗ってみる。

「一人にして下さい!」

「じゃあ、私はこっちで寝るから。あなたはそっちね」

「ええ?」

「何? ご不満でも?」

「あっ、いいえ」

「仕方ないな、添い寝してあげる」

 あれ?

 やっぱ妄想?

 意識が混濁して気分が落ちてきたのか? もういいや……。

 

「春風、一緒に寝よっか?」

 また妄想の続き……

「春風、そっち行っていいかな?」

「……」

「いいよね?」

「……」

 妄想か現実か?

 もう、なんでもいいや……

 

 妄想の中の翔子の魔性的振る舞いに、春風の心はイタズラに乱されてしまった。

 もう、なんだか思考が鈍ってきたよ。

 僕、こんなキャラじゃないし。

 やっぱ、やだな。

「お休み!」

 

 妄想のような寝言いっちゃって可愛い!

 でも、少し、イタズラし過ぎたかしら?

 ごめんね、春風。

「お休み」

春風 あの?

翔子 何?

春風 サーフィンの話はいつあるの?

翔子 明日よ、楽しみだね!

春風 次回「髪の香り」

翔子 まだまだ、長い夜か続くのね……。

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