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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第一章 湘南の春休み
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第12話 それは嫉妬ですか?

 陽が傾き始めた頃合い、春風は市川に電話を入れ、学生寮に向かった。

「お待たせ」

 市川は右手に持った一枚のカードを春風に見せつけるようにゆらゆら揺らした後、玄関扉の右隣に設置された認証機にカードをかざした。

 解錠された玄関扉を開け、学生寮内に入った二人は、まず学生寮の玄関扉の内側にあるホームセキュリティーの確認を行い、春風は静脈認証登録を行った。

「この寮内はすべての門扉に認証機がついているから、開錠は指をかざすだけでいいんだ。さっき使ったカードは、緊急時に学校関係者が使うためのもので、寮生は皆んな静脈認証で出入りをしているんだ。つまり、門扉は常に施錠されている訳さ」

「なるほど」

「また、寮長室の管理窓口に設置されたパネル操作で学生寮の門扉をすべて管理できるから、常時開錠なんてのも操作できるよ」

「そうなんですね」

「市川先生に早乙女さん、こちらにいらして!」

 と玄関右手の管理窓口から、秋田寮長が二人を寮長室へと招き入れた。

 市川に続いて春風もこの寮長室に入った。

「失礼します」

「うあ! 広い。この部屋は管理窓口と言うより小会議室ですね」

 どうだろう、十畳くらいはあるだろうか? エアコン、応接セットにテレビやミニキッチンがあり、

寝室だろう部屋が奥にあるようだ。

「まあ、お二人さん、お茶でもどうですか? こちらにお掛けなさいな」

 そう言われ、僕らはソファーに腰掛け、お茶をいただいた。

「ところで秋田さん、早乙女くんの荷物はどこに?」

「宅急便で届いてた荷物かい?」

「ええ、確か段ボール三つ程」

「新たに入寮する子たちの荷物と一緒に、そこの目隠しの奥に積み上げてあるからね。また、新入生が立ち寄ったら、荷物を運んであげて欲しいわ」

「分かりました」

 春風は秋田に、気になっていたここの寮生について伺った。

「皆んな素直で優しくて、可愛らしいお嬢さんたちばかりよ。寮の規則もしっかり守れる優等生ばかりよ」

「ありがとうございます」

「なあ、早乙女くん。僕さ、四月五日の新入寮生の歓迎会なんだけど、ちょっと都合があって欠席したいんだ。いや、ケータリングの段取りは取っておくから、心配しなくていいけどね」

「ねえ市川先生、早乙女くんがいきなり寮長だってのに、一人で大丈夫かしら?」

 市川は笑いながら、

「大丈夫ですよ。素直で優しくて、その上優等生なんですから」

 と秋田のセリフを重ねた。

「そうね、三年の天音(あまね)ちゃんや華宮(はなみや)さんに、歓迎会の段取りや進行を頼んであるから心配ないわね」

「それなら、早乙女くんも安心だ」

 そうなんだけど、なんか調子いいよね。

「では早乙女くん、明日の夜から寮長よろしくね」

「確かに引き受けました」

「私と秋田さんは少し話してくから、早乙女くんはこれで」

「はい、では失礼します」

「ガタガタ」

 僕は施錠された玄関扉に気付かされ、慌てて静脈認証を行い学生寮を後にした。

 

 

 見たくなかった

 

 

「カランカラン」

「おかえり」

 パーラーに戻った春風は、一階ホールのテーブルで食事をとる数名のお客と語らう店長に、声をかけられた。

「ただいま帰りました」

「翔子ちゃん、二階で待ってるわよ」

「ありがとうございます」

 と言って僕は二階へ駆け上がった。

「翔子……さん?」

 春風が声をかけた直後に、男性と笑いながら話す翔子の顔が、男の肩越しに見え隠れしていた。

「春風!」

 僕に気づいた翔子さんに合わせて、向かい合っていた男性が振り向いた。

「よう、春風くん。初めまして」

 この男、サーファーか? 軽いノリした金髪、目障りだ!

「春風も一緒に食べなよ」

 翔子さん。この男と付き合ってるのか? 

 だとしても、こんなに楽しく男と話しているのを目の当たりにすると、何だかこの場から逃げ出したい気分になる!

「君が言ってた通り、線は細いがイケメンくんだね。初めまして、角田光すみだひかる、よろしく」

「はぁ……早乙女です」

 なんか肌が合わない感じ。

 気取った感じも好感度0。

 こいつが彼氏だったら最悪だ。

「あなたは明日来るつもりなの?」

「明日はどうしようかな? 観にくるだけになるからな」

 あーもーなんだろう? この気持ち、大切な何かに蝿がたかっているようにしか思えない。

 でも、翔子さん楽しそうだな……

「ちょっと失礼します」

 僕がそんな風に思っても、翔子さんが好きなら、それは仕方ないもの……

「あら、早乙女くん、どうしちゃったの? 元気ないわよ」

 店長には分からない、僕の複雑な思い……

「いやぁ、ちょっと夜風に当たってきます」

 そう言って店を出た。

 ああ、星が見えるな。

 海岸からならもっと沢山見えるかな?

 春風はひとり自転車に乗り、海岸線まで行き、砂浜に自転車を倒して、自分も仰向きに転がり、空を見上げた。

「ほんと星がよく見える。手が届きそうなくらい近くに見える」

 しばらく星空を眺めた後、起き上がると、少し離れた波打ち際に人影を見つけた。

「誰かいる?」

 目を凝らすと、麦わら帽子と風になびくのがスカートの女性だと知れた。

 そう言えば、昼間に見た寂しげな目をした女の子も麦わら帽子だったな。

 同じ人なのか? いや、まさかね。

「あれ、もうこんな時間か」

 春風は麦わら帽子の女性が気になってはいたが、パーラーの閉店時刻につき慌てて帰ることになった。

角田 僕たち仲良くしようか?

春風 結構です!

角田 おいおい、妬いてるのか?

春風 そう言ったら消えてくれますか?

春風 次回「二人きりの夜」

角田 出番がないなら、消えちゃうかもね?

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