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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第四章 交錯する恋の行方
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第110話 王手!春風取り

 ケータリングでの食事は、板長の谷山蔵之助が一手に引き受けた抜群の料理が並んでいた。

「この細工料理は何なの? 初めて見た」

 と最上は驚きながら、無作法にも皿にのせた料理を立ちながら食べ始めた。

「うんめぇー!」

 桜山新一郎も調子に乗って、まさに立食パーティーさながら、想定外の旨さに舌鼓、蔵之助の料理と聞いて更に感激が増していた。

 

 天音が座る四人掛けテーブルには、香山先生、美涼店長と桜山カオリが陣取り、隣のテーブルには、翔子、北山萌、天野雫と早乙女詩織が座っていた。

「翔子ちゃん、ここまで来れば、あとは最後の締めだけね」

「はい、あとは流れに任せます」

 と背中合わせに美涼と翔子は言葉を交わした。

「天音さん」

「ん? どうしたの? カオリちゃん」

「あっち見てもらってもいいですか?」

「あっちって……あっ」

 天音の視線の先には、桜山新一郎、天野寛と最上阿良隆が手を振る姿が見られた。更に殿方四人が天音をデレっとして見ていた。

「うわ!」

 とこっちを向き直して、

「カオリちゃん、どうなるの? あたし」

 天音は固まった。

「兄たちは、モデルのAMANEさんと写真が撮りたいんですって! お願いできませんか?」

 写真か? 

 ここでも仕事の顔しなければならないのね。

 腹くくりますか。

「いいわ、行ってくる」

 天音は急に顔つきが、クールな仕事モードに切り替わり、凛とした表情、結んだ髪を解きながら、モンローウォークで男たちの群れに向かう姿は、プロモデルのなせる技だと、彼女のテーブル周りにいた誰もがそう思ったことであろう。

 

 春風はその間、彼女たちのテーブルあたりまで来て、テーブルの面々と話をしていた。

 

 祝勝会も終盤に入り、天音のテーブルには椅子を持って来て座る人に囲まれていた。

 その中には、最上と春風も混じっており、最上からいきなり昼間のメッセージの真相についての追求が始まった。

「今日、デートだったよな?」

 きた! 阿良隆さんのジャブ攻撃!

「あゝ、そうでしたかね?」

「おいおい、昼間とは違って、スウェーで逃げるね」

「逃げてません」

「いや逃げてるね」

「逃げてません」

「いや、逃げてるね」

「……分かりました。逃げました」

 そのやり取りに、周りが注目し出した。 

「何の話?」

「昼間のデートの相手の話しや」

 更に、周りも聞き耳を立てた。

「さあ、春風くん、もう逃げられへんよ」

 阿良隆さん、マジくだ巻きすぎだ!

 この時、真実を知っていたのは、春風を除いてこの場にふたりいた。

 その時のそれぞれの心理はちがっいて、解説すればこうなる。

 

 この最上って人うざいわ。

 弟が嫌がってるじゃない。

 好きとか嫌いとかでデートしてた訳でもなさそうだから、話したっていいはずだけど、何か心境の変化があったのかしら?

 デートの意味も知らずにしてるんだから、今になって誤解が生じちゃうのも仕方ないけどね。

 でもさ、春風は言いたくないんだから、もう辞めにしないと、阿良隆、ボコすわよ。

 これが葉山翔子の心理である。

 

 そしてもう一つの心理がある。

 あなたは私の期待を背負って戦うソルジャー阿良隆よ。

 あたしは横須賀の、いや湘南の女帝()()()()()よ。

 欲しいものはすべて征服よ、征服!

 言わせたい、公認を受けたい、そして手に入れたい、早乙女春風を!

 阿良隆、(ひる)むでない!

 この面前で、あたしがそのデートの相手と言わせてみなさい!

 すべての江ノ電ファンが、あなたの味方なんだから!

 行け!

 行け!

 行くのだ!

 どうした?

 行かないのか?

 仕方ない、あたしの出番なのか?

 これが、高揚し勢いを増した五十嵐天音の心理を超えた真理なのであった。

 

「春風くん? 横須賀デートのこと最上さんに話したの?」

 と天音、王手とも言える渾身の一撃に打って出た。

 周りはどよめき、春風は肉食獣に怯える目をしながら、天音をただ見つめていた。

 春風だけではなかった。

 新一郎も寛もソルジャーも、衝撃波を喰らい、一瞬、思考停止となった。

「お兄ちゃんと天音さんがデートしてたの?」

 と詩織が抽象的であった現実を、よりリアルにするダメ押しダメージを周りに、いや、特定の男性に与えたのだ。

 HPが衝撃的無くなりかけたソルジャー阿良隆は、断末魔のように叫んだ。

「マジか!」

 女帝アマネゾネスは、こう答えた。

 ふたりの仲は、皆さんのご想像にお任せしますわと言いたげに、

「あたしたち、知られてはいけないような(やま)しい関係なの?」

 と周りを制圧してしまった。

 

 これに憤りを感じたのは、春風ではなく、翔子の方であった。

 

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