第107話 春風はデートって?
祝勝会
「祝、湘南ライド総合第三位 ERC様」
「なあ、新一郎よ。総合第三位だぜ。漸くここまで
辿り着いたな」
「ええ、漸くですね。今回は天野さんだけでなく、若手の頑張りがあっての入賞だと思います」
「確かにクライマー俺一人じゃ、到底チームを引っ張りあげることは難しかったと思うよ」
「まあ、とにかくみんなに感謝だな」
「ええ、そうですね」
天野と桜山は、そんなことを話しながら、パーラー七里ヶ浜に入った。
「おーい、待ってましたよ、天野さんに桜山さん!」
と東堂が手を挙げ、高砂席へと手招きした。
「大仰なやっちゃなぁ」
と天野は呆れながら、東堂の側まで来て、
「早乙女くんは来てるか?」
とあたりを見渡した。
「あいつ、まだ来とらせんですわ」
と最上は、あたりを見渡す天野に席に着くよう手招きをした。
そして、
「あいつ、まだデートしてるんちゃうやろか?」
とメンバーに声をかけた。
「デートって誰と?」
独身男たちは、わちゃわちゃと最上の話をし始めた。
「ねぇ、聞いた?」
「うん、聞いたよ。寮長がデートなんだって」
「やるじゃん寮長」
「お相手は誰なんだろね?」
あたしよ、あたし。
ちょっとだけ、言っちゃいたいな。
「ちょっとお兄ちゃんたち、天音さんの方ばかりチラチラ見てることない?」
「雫ちゃんのお兄さんだけじゃなくて、うちのお兄も天音さんのほうばかりに見ているかも」
天野雫の兄・天野寛、桜山カオリの兄・桜山新一郎だけでなく、最上阿良隆も五十嵐天音をチラチラと視界に入れているのが、目についた。
「ねえ、天音さん? 天音さん!」
ええ? あっ、ちょっと意識が遠のいてたかも。
「な、何かしら?」
「お兄ちゃんたちが天音さんのことばかり見ているから」
「えっ?」
天音が高砂席にいる男たちを見ると、男たちは、プイッと視線を外して素知らぬ振りをした。
「ん?」
天音は、首を傾げながらスマホを覗き込んだ。
「着信はないか……」
と呟きながら、壁掛け時計が六時になるのを確認した。
美涼店長が祝賀に集まった面々に対して声を挙げた。
「時間になりましたので、祝勝会を始めたいところではありますが、この度の主催者である葉山翔子が到着しておりませんので、今暫くお待ちください」
「市川さん。葉山翔子って、あの鎌倉学院のサーファーの葉山のことですか?」
「そうだよ」
「また、なぜ我々の祝勝会を彼女が主催しているんだ?」
「これにはいろいろあってね」
と市川遊は呟いた。
「いろいろとは?」
「葉山翔子が早乙女春風と義姉弟の契りを交わしているらしく、俺が翔子とは親族になるため、間に立つ葉山翔子が主催者を買って出たらしいんだ」