見習い神様の手違いで神界に来てしまった俺は見習い神様のお手伝いをする事にしました。
俺は榊原龍之介36歳独身。
大手企業で事務を長年してきたが…噂では次のリストラ候補に名前が上がっているらしい。
何とも情けない話だが俺は資格も趣味も無く、ただ会社と家の往復生活、運良く補欠採用された俺は与えられた仕事をこなすだけでスキルとかも特に無い。
つまり俺はリストラ候補に上がってこれからどうしよう!?ってパニックになっていた。
だから俺とは違って多才で落ち着いている弟と話せば何かいい案が出て来るんじゃないかって期待して電話を掛けたんだ。
実際、弟からはいくつか伝手を紹介してくれるって言ってくれたし、働き詰めで余り休んでいなかった俺に少しは休んだら?とアドバイスしてくれた。
それで俺はちょっと休んで弟家族とご飯でも行ったりしてからハローワーク行ったり、伝手を紹介してもらったりしよう!って決めて…足を踏み出して階段から落ちた。
電話しながらだったからきっと弟もびっくりしたと思う。
階段から転げ落ちた時スマホを落としたし、遠くで叫ぶ声とか救急車の音とか聞こえたから。
ただ俺は階段から落ちたが生きてはいる。
なんか小さい女の子が俺の頭をペチペチ叩いてるのが視界に入ってるし。
「……君は、何してるんだい?」
掠れた声で言うと女の子の手が止まる。
「…あ、起きた。」
「あぁ、起こそうとしてくれたんだね。」
ゆっくり起きあがろうとして目に入ったのが彼女の足元にあるピコピコハンマー。
多分今起きなかったら次はこれで起こそうとしたのだろう。
「起きて良かった。…痛くない?」
「ん?あぁ、階段から勢い良く落ちた割に体が全く痛くないな。」
「そう、それは良かった。」
にっこり笑った女の子は弟の娘と同じくらいに見える。
あの子が今年7歳だったはずだからこの子も多分そのくらいだろう。
「あの、ごめんなさい。」
「え?なんで謝ったの??」
俺は何で謝られたのか分からなかっただけで怒ってなかったんだけど怒られたと思ったらしい女の子の目が潤む。
「怒ってないからね?えっと、俺今どういう状況なの?」
なるべく優しく声を掛けたら女の子がゆっくりと口を開く。
辿々しい言葉の中には分からない言葉も多くて質問したりしながらのやりとり。
そうして分かったことは以下の事だ。
1.俺は階段に落ちて死んだこと。
2.死んだ時周りに結構人がいて救急車を呼んでくれたり、通話中だった弟と連絡を取ってくれた人がいたこと。
3.ここは神界で俺は魂を元に構成されたもので転生前の仮の体に入っているらしい。
姿は榊原龍之介そのもの。
4.俺は本来ここで死ぬ予定ではなく、この女の子(神様の娘で神様見習いらしい)の手違いで両足骨折、頭にたんこぶの予定が転落死になったこと。
神様見習いさんのお父さんは多忙で暫く帰れない為、不慮の事故への対処が現段階では出来ないらしく、予定外の出来事に神様見習いさんもどうしていいか困惑中みたいだ。
死後の世界=三途の川イメージしかない俺もこの後どうしたらいいか困惑中。
いくらこの女の子のミスで死んだんだと分かっても、彼女を問い詰めたり泣き喚いたりとかはちょっと…俺には無理だし。
「ええっと…とりあえず何か食べるものはありますか?」
死に際の世界で食べ物を食べると元の世界に戻れなくなるとか聞いたことはあるが俺は既に死んだ身、昼ご飯を食べ損なって夜ご飯もまだ食べていなかった俺はお腹がかなり空いていたのだ。
これからの事を考えるにしたってお腹を満たしてからでもいいだろう。
「台所はあっち。好きに使っていいよ。」
行った事はないが高級リゾートホテルにあるような、高そうなベッドから降りて女の子が指差した方へ向かう。
扉を開けて広い台所へ向かえば全然使って無さそうなキッチン用品達。
「…普段料理したりする?」
「料理なんてしないけど?」
「……だろうね。野菜とかはあるけど腐らないのかな?」
「神界は成長促進魔法や腐敗魔法とか掛けなければ変化は無いよ。」
「…なるほど。俺の世界にはないけど、ここは魔法がある世界なのか。じゃあ色んな食材があるけどこれは君が用意したのかな?」
「お父さんが見習い用の仕事と共に用意した物だけど食べ方がわからないの。料理本見ても分かんなくて食べるの諦めたのよ。」
食べなくても平気だからと仕事を優先させたらしい彼女の目の下にはよく見ると薄ら隈がある。
ある程度飲まず食わず寝らずでやっていけても限界はあるようだ。
魔法については良く分からないけど、日本と海外でも武器とか文化とか違うし、神界は魔法が主流なのかな?
1つ質問すればまた疑問が出てくるのは神界に来たばかりだから仕方ない。
俺は意識をご飯に戻し、女の子に話しかける。
「良かったら今からご飯作るから一緒に食べない?1人で食べるより誰かと食べたい気分なんだ。」
「…美味しいご飯ならいいよ。」
「うん、頑張って作るから待っててね。」
見慣れない食材もあれば身近な食材もあったので今回は慣れているメニューをささっと作り上げる。
メニューは卵レタス炒飯と生姜焼き、あとワカメスープ。
「ひとまず食べよう。」
「いい匂いだね。」
「美味しそうだろ?」
「うん。」
「じゃあ…いただきます。」
「んん?い、いただきます…?」
向かい合わせに座り、早速一口ぱくりっ。
正面の女の子の目が見開き徐々に食べるスピードが早くなる。
「…落ち着いて食べないと咽せるぞ?ほら、水飲みな?」
「うん。ありがとう。」
ゆっくり食べ始めたのを見て俺も卵レタスチャーハンを口に運ぶ。
「…ん?これレタスじゃないな…?」
「んーと…この葉っぱは葉兎の葉だって。寒い所に生息する魔物の尻尾の葉っぱみたい。そのレタスっていうのは知らないけどリリアーシュ国北部ではよく食べられてるらしいよ?」
「葉兎の葉?魔物の尻尾??リリアーシュ国北部??」
「あぁ、そこ説明してなかったかも。貴方がいたのは地球にある日本って国でしょ?私が本来管轄するのはその地球から遥か離れた惑星、ラージャって惑星のリリアーシュ国って場所なの。稀にお父さん達が管轄する違う惑星の書類が混ざってるんだけど地球のも混ざっていたみたい。」
「つまりたまたま間違えたのが管轄外地域の書類で、間違えたのが君だから俺はラージャって場所にいる…?」
「正しくはラージャの神界。どこも人手不足で他の惑星の担当書類までお父さん達は受け持っているの。」
「うーん。どこでも人は足りてないんだな。俺は企業縮小によってリストラ予備軍だったけど。」
「……貴方、ここで働かない?」
「えっ…急に何??」
「これから貴方に料理とか雑用お願いする代わりに衣食住を保証するってなったらお互いWin-Winじゃない?どっちにしろお父さんいないと貴方をどうすべきか分からないし。」
先程までのしおらしさはどこに行ったのか、時折チャーハンをもぐもぐさせながら利点について話を勧めてくる。
原因がこの女の子とはいえ、これからの事を考えるとこの提案を受け入れた方が良いんだが…
「俺、レタスと葉兎の葉の違いすら分からないレベルなんだけど?」
「調べたい物をじっと見て『鑑定』って心の中で言ってみて?」
「……あ、見れた。君、ミナルスっていうのか。」
「そうだよ、榊原龍之介さん!あ、ステータスで確認して見られたくない情報は隠蔽すればいいよ!!あと向こうの部屋に料理本あるから良ければ使って!!」
「待て待て、色々言われてもついていけないから!」
「お代わりはある?」
「あ、はい。こんくらいで良いか?」
「うん!とりあえず説明は食べた後に話すから。」
「…分かった。」
その後、食べ終わった俺は説明を受けながら既に雑用係はほぼ決定している事に気付く事になるし、自分の部屋を案内されて考えを改める事になる。
「はーー…羽毛布団最高…」
ふかふかの布団に包まれ、うたた寝をする俺は隣の部屋が書類(未処理)の山で翌日から数日寝れないほど忙しくなるのだが夢の中の俺はまだ知らない。
ご覧頂きありがとうございます。
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他にもお話を書いているので良ければどうぞ٩( 'ω' )و