Q76 出水中瀬市
一言で表せば出水中瀬市は非常に個性的な街で、若者が中心となった街だ。
ただそこに昔から地元に根づいている温泉施設と音楽をメインとしたサブカルチャーが融合しており、新旧が上手く混在した場所としても有名である。
音楽の観点からいえばライブハウスの数はかなり多く、有名なバンドやアーティストたちが日々、己の才気をどう輝かせるかで競い合っている。
その中でも特にバンドマンが出演を夢見ている箱が《タルティ》と《MOJIO》だ。
理由としては実績にちなんだ歴史があるということに尽きるだろう。
*ちなみに、タルティは若者~三十代が中心で、MOJIOは年齢層高めまで幅広く出演している傾向がある。
今やレジェンドとなったバンドも若かりし頃はその場所で下積み生活を送り、のちに大成した。その数も国内トップクラスで、加えて伝説的に語り継がれるシーンが生まれ続けていることもあいまって、リスナーの記憶に残るライブが多いことも憧れの箱たるゆえんだ。
だからこそこの二つではそれなりの実力があってもなかなかライブをすることは難しい。
演奏技術だけではなく、ライブへの情熱や姿勢、楽曲の良さ、そして何より音楽としてかっこいいかどうか、それらの総合点を鑑みて演者を選定している。
若手バンドの登竜門としても位置づけられたイベントライブなども開催されており、ニューカマー目当てに全国から観客が殺到することも少なくない。
ところ変わって駅周辺には狭隘な街路が入り組んでおり、そこには複数の商店街組織があって、古着屋や雑貨屋、あとは個性的な飲食店が軒を連ねている。ほとんどが個人経営のお店ばかりで、かなり色濃い個性で溢れている。
また歩いていると突如として温泉施設や足湯などが現れたりするのでそこがまた意表を突かれて面白くもある街なのだ。
むろんメインである音楽関連の店舗も多種多様に展開されており、レコードショップや楽器店なども充実していて、かつミニシアターでは出水中瀬出身のバンドが過去にやったライブ映像などを中心にリバイバル上映会などを定期的に行っている。
この地域の開湯時期はおよそ八百年前とされている。
ある時、白兎が毎晩温泉に浸かっているところをたまたま旅をしていた普喜野生市にある寺、《夢下都寺》の坊主によって発見されたと記述にあり、そこから各地に温泉の開発が進んでいったとされている。
ただそのせいもあってか、それ以来すっかり白兎の機嫌は悪くなってしまったようだ。当然かもしれない、白兎にとっては大好きだった温泉タイムを邪魔されたのだから。
挙句の果てには住民たちと白兎との間でいざこざが起こり、怒った白兎は出水中瀬の土地から離れてしまった、と伝承されている。
その後、出水中瀬には強烈な疫病が流行り、しばらくは住むことさえままならない不毛な場所となってしまったともある。
現に夢下都寺の住職が今も継続して出水中瀬の温泉地を訪れて、その土地の恒久的な安全と繁栄のため、そして白兎に対しての謝罪も兼ねて祈りを捧げている。
その際に用いられる儀式用の衣装として、兎のお面を顔ではなく頭の右半分に載せる形で装着する。衣服は白の装束を着るのだが、そこには兎の横顔が何匹も刺繍されてある。なぜ全てが横顔になっているのかは解明されていない。
祈りの最中には民族的で特異な音楽が演奏される。
その曲調にはどこか日本らしさがある中にも北欧音楽のようなポップ・エレクトロニカ、そしてシューゲイザーのような浮遊感かつ耽美的、そこにメランコリックな要素が含まれていて、聴く側が別次元へと誘われてしまうような不思議な感覚に陥る。
なお、泉質は強酸性となり、効能としては神経痛、リウマチ、皮膚病、疲労回復、あるいは癌や難病にも効果が期待されると言われている。
今日も遠方から観光客や難病で苦しんでいる人たちもこの地の湯を求めに訪れているようだ。




