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Qub  作者: ソノ
《ヒコツエリア》編
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Q67 ディスられ女

 「‥‥わぱ、なーんか、あたし双方からディスられてる?」

 あじろは怒りと落胆を織り交ぜた複雑な表情を露にし、頬を痙攣するかのようにひくひくさせていた。


 「そうね、その二人は遠回しにディスってるのは間違いないと思うわ。けど仕方ないわよ。あじ姉ははしたないし、大人気ないから。ほら見たらわかるじゃない、冷矢笥ゆあも、もう一人の子も、なんか見え隠れするフェロモンみたいなものがぷんぷん匂うじゃない。あじ姉みたいにあからさまじゃないからね。品があってなおかつ清楚な感じもあるし、やっぱり敵わないよね、けろけろ」

 わぱは淡々と言いながら最後に小さく笑った。


 「おおおおい!わぱ、あんた何気にいっつもキツイわね。ったく、どっちの味方なのよ!もう、ああだんだんやる気なくなってきたけど、怒りがその分倍増してきたからいっか。それに、そこのあんた!サキヤミエリアのマスターでしょ。ふん、今回のターゲットはあんたじゃないから、命だけは助けてやろうと思ったのに。顔に似合わずえらく好戦的じゃないの。いいわ、まとめて血祭りに上げてやるんだから!」


 あじろはメイクが崩れそうなほど鬼の形相になり、イノシシのように鼻息を荒くした。


 「えええ?あじろさんでしたっけ。誤解ですよ、その、同性から見ても若くてお綺麗だと思うし、スタイルもいいし‥‥けどまあ、そこのけろちゃんが言うように、ちょっとあからさまにガツガツしちゃってるかなって。ぞくぞくしないしね、損してるかなって、なんか」

 しとねは躊躇いがちにだが、しっかりと頷いて答えた。


 「めっちゃディスってますやん!あ~もう限界だわ。許さないんだからね、あたしを怒らせたこと後悔と快感をもって思い知らせてやるわ!」


 きぃ~と発情真っ盛りの猫が発狂するように、あじろは口を大きく開けておどろおどろしい形相をしとねたちに向けた。そして右手で「Q」を象り、人差し指を縁にかけた。


 「出てこい、あたしのβ版。《ドロリーナとブエブ》!」


 勢いよく人差し指を振り下ろしたあじろの右手から振動したエネルギーがほとばしった。その中から現れたのは長身で不気味な雰囲気を醸し出した女性の道化師だった。


 水玉模様のコートを羽織り、その中には体のラインがきわどく表現された黒のボンデージを身につけ、頭にはロバの耳がついたフードを被っている。

 顔は道化師のイメージ通りで、白塗りの下地に赤い鼻、目元には血を垂れ流したようなアイシャドウ、その下には涙が珍しいことに三つも描かれてあった。唇は赤オレンジで厚く塗りたくられてある。

 手には赤いステッキが握られ、肩には飼い主と親密な関係を築いているセキセイインコのように、小さくてぶよんとした小太りのピエロが乗っかっていた。黄色い衣装を着ていてどこかパジャマのようにも見える。唇はかなり分厚く、目は胡麻粒のようにかなり小さかった。


 しとねは思った。

 《これはこれは、どこ見ていいかわかんないなあ》と。


 「これがあたしのβ版。冷矢笥ゆあ、この前はあんたに勝ちを譲ってやったけど、今回は甘ちゃんなところは一切なし!死をもって――」


 「よく言うわよね、あじ姉」と話を遮るように背後でわぱが再び粛々と話し出した。


 「この前はこてんぱんにやられたのにね、けろ。だから今回は安心を見て五人全員で攻めようって。ね、じゃみ~」

 

 わぱからふいに振られたのでじゃみ~はもじもじした。ついでチリチリした髪の毛を指でいじりながら「うん、そうだよね。しかも相手がダメージを受けている時を狙って攻めようって言ってたよね」とさらに体をよじらせて言った。


 「けろけろ。そうよねえ」


 「うぉおおおおおおい!」と背後を見やってあじろは声を張り上げ、二人を制した。


 「どっちの味方なんだい!くそう、全くあんたたちは。それ以上言ったら減給してやるんだからね!ふん、見てなさいよ、あたしの真の力を――」


 「ああうるさいな」と吐いて捨てるように今度はゆあが話を遮った。


 「私の一番嫌いな人種。喧しくてがさつで下品で、小心者。あんたに全部当てはまるね。それに、私に勝てる?寝言としか思えないけど」

 そう言ってゆあは余裕のある笑みを見せた。


 「お~お~お~。言ってくれんじゃんよ~、どいつもこいつも‥‥けど完全にプッチンきたわ、感謝するわ、冷矢笥ゆあ。卑怯もくそないのよ。あたしは再認識した、あんたがこの世でいっちばん、大嫌いな女ってことをね!」


 あじろの目つきが明らかに変わったのとほぼ同時に、背後にいる女ピエロと小太りな小型ピエロが禍々しい黒のオーラに包まれていく。


 「押し潰してやるわよ、快感という名のGでね。あたしのQubは《重力》。やみつきになって、二度と立ち上がれなくなればいいんだから。ドロリーナ、ブエブ、やってしまいなさい!《リビドーウェイブス》」


 ドロリーナのステッキに黒いオーラが集まっていく。そしてブエブの小さな目が暗がりで光るLEDライトのように眩しく輝いた。


 《きゃっ、あの子、ルームライトに欲しいわ》

 しとねがそう思った矢先だった。


 ステッキから「ゴゴゴゴゴ」と、それに被せるように「ぷよよよーん」という音と共に黒いエネルギーが放出された。


 「ジジ!ごめん、お願い!」


 《雪見六歌仙》


 ゆあの一声で再び、彼女の前に雪の結晶で作られた盾が張り巡らされ、相手の攻撃を見事に受け切った。ただ相手の重力波は止まることなくステッキから放出され続けているため、盾を出し続けなければならない状況にはなってしまった。


 「ゆあちゃん!ふぇーん、助かったよ~」

 しとねは両手をすりすりさせて叫んだ。


 「ちっ!本当に鬱陶しい技だね」

 あじろは悪態をついた。

 だがしとねが気に食わなかったのは、表情に確かな余裕と勝機がにやけた笑みとして滲み出ていたことだ。


 逆にしとねを大いに悲しくさせたのはゆあの表情だった。


 憧れや畏怖まで感じていた彼女の動じない顔はそこにはなかった。

 真夏なんてどこ吹く風。

 涼し気で色白な美少女には決してあってはならない大量の汗が額には滲んでおり、今にも倒れそうな苦悶の表情を隠せずにいたのだ。


 「きゃははははは。あ~愉快だわあ。最高にゾクゾクしちゃう。ま、本来ならあんたはそこからもう一つのQubを使うんでしょうけどねえ、この前みたいに。だけど、今は無理よね~その状態じゃあ。あんたの底無しのQub量は認めてやるわ。普通の使い手ならせいぜいβ版を二回も使えば息切れになっちゃうでしょうけど、あんたはその倍以上は難なく扱えるでしょうね。しかも二種類のβ版を同時に扱えるんだからねえ。そこは認めてあげるわ、天才ってことをね。けど、さすがにもう使えないでしょ。あれだけ二種類を連発してしまえばもう守るので精一杯。くくく、あ~あんたを追い詰めていくのがこれほどの快楽を生み出してくれるなんて‥‥感謝するわ。さ、もうおしまい。みんな!」


 号令をかけるようにあじろは呼びかけた。

 途端に四人の表情が真顔になるのをしとねは見逃さなかった。彼らの行動はさっきからのマイペースな雰囲気とは異なり、迅速かつ速やかに変わっていた。


 あっという間にしとねとゆあは五人に包囲される形となってしまったのだ。と同時に彼らは雅楽代が持っていたキュービックストーンを取り出し、力を込め始める。すると片手で持てるほどの小さな黒い筒状の物に変化した。


 しとねは即座に見抜くように思った。

 《あれはバズーカだわ。間違いなく。くそう、なんて奴らなんだ、か弱い女性をまるで凶悪犯のように扱うなんて。ぷんぷん丸がもうリミッターを外しちゃうわよ》と。


 「‥‥はっは。誰が限界だって?あんたたち相手なら、これくらいのハンデでちょうどいいくらいじゃない?」

 

 精一杯のつよがりだということは全員がすぐにわかった。ゆあから冷気の力が失われていくのをしとねは傍で感じていた。


 「いいわね~最後の最後まで腹立たしくて最高じゃない。いいわ、じゃああんたにもっとヤル気出させてあげる。ごーらん!あんたは一足早く氷芴沢へ戻って。で、海星会病院に行きなさい」


 あじろは蹴り飛ばしたくなるような胸糞悪い笑みを浮かべた。

 対照的にゆあの目に深すぎる怒りが宿るのを感じたしとねは思わず背筋がぶるぶると震えてしまった。

 あんなに穏やかで眠たげで、可愛くて、色気ムンムンなのに。何よりも世界一妹思いなお姉さんなのに!

 しとねは悔しくて涙目になりそうになった。

 

 「ゆあちゃん、どうしたの?海星会病院って‥‥もしかしてのあちゃんの?」

 しとねの問いかけにゆあは黙って頷くだけだった。


 「というか、この人たち何なのよ~。私たちの勝負の邪魔しちゃってくれて!お姉さんがた、帰ってくれない?」

 しとねも久しく感じたことがない悔しさと怒りで感極まっていた。


 「言ったでしょ?あたしたちはエリアハンター。名の通り、エリアを統治した者を狩る。それだけよ」とあじろは泰然と言った。


 「いや、だからその理由を教えてって言ってるのに、ああもう!」


 「そんなの教えるわけないでしょ?きゃははは、さて、ごーらん、冷矢笥ゆあの妹を拉致しなさい。そうすれば、冷矢笥ゆあ、あんたの願いも終わる」


 「あいよ」

 ごーらんはスーツのポケットからダビィ端末機を取り出し起動させる。

 淡い光が生じてごーらんは消えていった。


 「ふざんな!!!ヴェル!ボレア!」

 ゆあの咆哮が寒々とした大空に駆け昇っていく。


 恐らく生涯で最も声を張り上げた瞬間なんだろうなとしとねは思った。

 しかしヴェルとボレアも限界だった。溶けかかった氷の鎧と槍がそれを象徴していた。

 それでも騎士たちは立派だった。主の命に応えるように美しい合わせ鏡を作り、最後まで戦うという強い意志を示したのだ。


 しとねも息を整え、これでもう最後だと確信し、静かにβ版を発動させる。

 《あ~ぬんさん、私もこれ以上はもう無理だよ。一回でも使えばバッタンキューだね》


 「‥‥しとね、ちゃん、あんた、どうして」

 ゆあは今にも意識不明になりそうな状態の中、途切れ途切れ口にする。


 「へへへ、わたしものあちゃんには借りがあるの。それに、こんな下品極まりない奴らに負けたまま終わりたくないもん、‥‥負けそうだけどね」


 「‥‥はっは。やっぱり変わってる。じゃ、もう何も言わないよ」

 

 「うん、よいよい」


 「無理よね~そんなボロボロな状態でまともにβ版は発動できない。さあてとぉ~仕上げにかかりましょっか。みんな、一斉射撃よ!」


 あじろが勝ち誇ったかのような声を上げた時、まるで大型の恐竜たちが地上を踏み荒らしているのではないかと疑うほどの地鳴りがしたのだった。

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