Q5 争奪戦
久形は安堵していた。
予約争奪戦を制したからだ。
ふうと息を吐き、彼は自分の部屋でハラハラドキドキした胸の鼓動を落ち着かせようとした。それから猿が小躍りするかのように、静かに足音は立てずにその場できゃっきゃと両腕を動かした。
三十四歳の男が一体全体どうしちまったんだ?
気が狂ったのか?
否、俺は正常だ。
久形は首を縦に振り、ベッドに腰掛ける。
モンシェールクレアはとにかく予約の電話が繋がりにくい。
このご時世にもかかわらず電話回線が一つしかなく、開店時刻になれば哀しいかな、欲に勝てない男どもが一斉に予約目当てで電話をかける。まさに当たりくじを引くかのような、運勝負なるわけだ。
この日はお目当ての彼女がちょうど出勤する一週間前で、予約が可能になる日だった。
久形は受付開始時間の朝九時の十分前に起床し、携帯をスタンバイしていた。
そして見事最初のコールで電話がかかり、予約ゲットに至ったわけだ。
一回目で電話がかかることは滅多にないためか、久形は電話で予約を取りながらこぶしを握り締めていた。それほど彼女の予約は困難なのだ。
即完売になれば、今度はいつ会えるかわからない。だって出勤数が極めて少ないのだから。
来週の土曜日が待ち遠しくなった。
それだけで久形は幸せな気持ちでいられる。
彼女にはそれほどの破壊的な魅力が詰まっている――。
《真宵あめ》というキャストはだからやめられないのだ。
月に一回行くかどうかの程度だろ?
それくらいは大目に見てよ‥‥。
駄目な男だっていうことは理解してるから。
真っ当にね、誠実にね、生きるし‥‥。
誰に言ってるんだ?
久形は鼻で笑う。
自責するのも単なる惰性的習慣になってしまった男。
言い訳しかしない男さ、俺は‥‥。
その五分後には久形はもう彼女に渡すお土産をネットで物色していた。
まだまだ日も浅いせいか、彼女との会話ではなかなかプライベートなことは聞き出せていなかった。しかし彼には動物的な勘があった。
恐らく彼女の好きな物は――。
そんなことをあれこれ想像すると幸せになれるものだ。
彼の検索する右手が「眠たげなペンギンをデザインしたポーチ」で止まり、そのまま購入ボタンをクリックした。