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Qub  作者: ソノ
《ヒコツエリア》編
52/80

Q51 臨戦

 「遅い」


 一言だけで場の空気がこおりついてしまう。

 

 その後は気まずい無言モードになるので、雅楽代うたしろは必死に宥めていたが彼女は黙ったまま五六渉ふのぼりわたるを睨んだままだった。


 ヒコツエリアの最北端にある細長いドーム、通称ポッツンドームに三人のQub使い(Quber)が集まっていた。


 周囲は氷漬けされた湖で囲まれており、現実世界では氷芴湖で行われるお祭りの場所と同じ環境になっていた。この場所がエリアマスターである冷矢笥ゆあのアジトでもあった。


 ヒコツエリアは南北に長く伸びた地形が特徴的で、周りは険しい氷山で囲まれている。南にはユアドームがあり、さらに最南端には南極のような氷の大地が広がっているらしいが、山を越えないと辿り着けないようになっているらしく、ゆあがエリアを統治するもっと前からそういう作りになっているようで、彼女自身も地形などをいじることまでは面倒臭かったので未着手に終わっていた。


 「おい、渉よぉ。ダビィ端末のアラートが鳴ったらすぐさま集まるってルールだったはずだが。どうしてこんなに遅れたんだ?」


 雅楽代は埒が明かないとばかり、五六に訊ねた。


 「‥‥申し訳ないです。ゆあもごめん。ちょっと面倒っていうか、同僚の刑事に何やら勘繰られてるみたいで。ちょっとその対応に遅れてた感じ」


 「刑事に?おいおい、大丈夫なのか」


 「それは大丈夫かと。ただ勘が鋭い男なので注意はしていきます。わざわざ崎邪見から氷芴沢まで来た男なので」


 「もういいよ。わかったから。今は攻めてきたサキヤミの連中をどうするかだけ。うたやんと渉は早急に中継地点に向かって。そこであいつらを仕留めて」


 「え、もう?メトラーたちがいるからまだ大丈夫なんじゃ‥‥」


 「やられたよ、十体とも。だから俺たちがいかなくちゃならんのだなあ、これが」

 雅楽代はなぜか嬉しそうに肩をすくめた。


 「メトラーが?まさか」


 「そのまさか。けど全然心配なんてしてないから。いざとなればうたやんが力任せに片づけてくれるし。そうよね」

 ゆあが無表情で雅楽代に視線を送る。


 「はは、無言のプレッシャー、圧がすごいからなあ、お嬢は。つうか、うたやんって呼ぶのやめてくんない?」


 「うたやんはうたやんでしょ。却下。さっさと持ち場についてもらえる?」


 ゆあはドームの中央に置かれている、古びてはあるが豪華な作りの椅子に座って、まるで女王様のような雰囲気で命令した。


 雅楽代はゆあに比べて何倍もの巨漢なのだが、すっかり萎縮してしまい、小さく丸まりながら「はい、わかりました」と答えるしかできなかった。


 「渉も、すぐに向かってね。容赦しなくていいから」


 「‥‥うん、わかったよ」



 ポッツンドームは縦長のドームで、地下にも何個かスペースがある。

 最下層である地下五階にあるワープ装置を使うために雅楽代と五六は螺旋状の階段を下っていた。


 「にしても、お嬢はおっかないよなあ」


 「雅楽代さん、声でかいんだから、ゆあに聞こえちゃいますよ」


 五六の言うように、雅楽代の声が図体と同じく大きかったので、静謐な建物に中年男性の喧しい声がはしたなく渦を巻くように反響した。


 「いいんだよ、お嬢は陰口みたいな小事、何とも思わないよ。ところでよ、渉、お前本当にお嬢と一緒になりたいのか?」


 「なっ、何ですか急に。大きなお世話ですよ、全く」


 「いいじゃねえか、たまには大きな先輩の世話もありがたく受け取るくらいの力量がないと良い男にはなれねえぞ」


 「意味わかんないです」


 「け、面白みのない奴だねえ。ま、人生の先輩の忠告っつうか、アドバイスな感じで聞けよ。お嬢は確かに良い女だ。俺から見たら年齢的にも小娘なんだが、俺でさえぞくっとする。ありゃ色気だな。危うさというか、脆さというか、儚げというか。そういうものに色気が歪に混ざりあった感じだな」


 「キモイですね」


 「うるせえ。目上に対してもうちょっと慮れないか?まあいいけどよ。お嬢とくっつくってことになるとかなりの覚悟がいるってことだ。気苦労が絶えないぜ、いくら幼馴染だとしてもな」


 「本当に大きなお世話。わかってますよ、そんなことくらい。前にも言った通り、僕にはとっくに覚悟ができてますから」


 「好きな女のために死ねる覚悟ってか。けどお前、エリートなんだろ?少しは自分の幸せのこととか生活に対して考えてもいいんじゃないか?」


 「よく考えての結果がこうですよ。警察組織に入り込めれば色々メリットもあるし。全てはあいつのためです」


 「そうかい、大したもんだよお前は」

 雅楽代は耳をつんざくほどの大笑いをしてまたもドーム内を振動させた。


 「‥‥あ~うるさい。なので、頼りにしてますんで」

 五六は両人差し指で耳穴を閉じたままぼそっと呟くように言った。


 「あ?俺よりお前のほうが断然才能あるだろうよ、この世界でもな」


 「スタイルが違うでしょ?僕と違ってゴリ押し戦法だし、力一つで場を制圧できるでしょ?」


 「あのなあ、俺のこと馬鹿にしてるだろ」


 「いえいえ、滅相もない。ただひたすら雅楽代さんの力を信じているだけですよ」


 「け、完全に馬鹿にしちょるな、ったく」


 「焼肉十人前奢るんで」


 「お、絶対だぞ。極上ハラミでよろしく」


 「はいはい。‥‥さてと、久しぶりですねこの装置使うの」


 

 地下五階に到着した二人は中央に置かれたカプセル型の装置の中に入った。


 「狭いんですけど」


 「俺が悪いって言いたけだな。我慢しろ、そんなんじゃお嬢のお相手は無理だぞ?あ、念のため《ダビコス》も着るか?」


 「そうですね。念のためそのほうが無難かと。というか、雅楽代さんのコスチューム姿は見てらんないですけどね」


 「またディスるよねえ。ふん、年下二人にうたやんだの、力馬鹿だの言われている俺は幸せもんだわな」


 「そうですよ、雅楽代さんの良いところですよ、そういうポジティブさが」


 ワープ装置は淡い光を帯びながら二人を中継地点である氷笏沢温泉へと運んでいった。

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