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Qub  作者: ソノ
《ヒコツエリア》編
49/80

Q48 ゆあとのあ

 「‥‥にゃるほど~、と言いつつも理解まで至っていないんだけど。つまり、のあちゃんは実際には病院で意識不明になっちゃってる状態なのよね。で、お姉さんはあなたをこの世界に連れてきて、意識だけをこのダビィに置いてきたってことよね?うーん、やっぱわかんないな。それにしてもこのうどん、美味しいよ~」


 しとねは喋りながらドーム中央寄りにある大きなスペース内の食堂で、冷矢笥のあが作ってくれたあったかいうどんを豪快にすすり込んでいた。


 久形も同じくすすりながら「出汁も美味しいよねえ、甘辛くて」ともはや話そっちのけで食事に専念しているだけだった。


 プモも不満げな表情は浮かべつつも小さなお椀に入れられたうどんはすでに平らげていた。


 「はっはは、やっぱり面白いなあ。でも良かった、気に入ってもらえて」


 のあは屈託のない笑顔で手を叩いて喜び、話をついだ。


 「そうそう、私はお姉ちゃんに病院から一旦連れ出されたみたい。で、この世界で意識だけを抽出して、元の世界に肉体だけを戻したって言ってた。元々意識が戻らないから一緒だし、仮に意識が戻ったら自動的に今いる私も元の肉体のほうへ帰っていくって。なんか難しいから私もあんまし理解できてないけど」


 「ふうん、難しいわあ。けど、どうしてこの世界に肉体があるのかしら」


 「それが、冷矢笥ゆあの恐ろしいところってことよね」

 プモがしみじみとドヤ顔で言ったのを見て、しとねは軽蔑するような視線をしばらくプモに浴びせ続けることにした。

 が、プモは相変わらず全く気にしない素振りで続けた。


 「普通はそんなことできるマスターってなかなかいないわよぉ。天才ってやつねえ。だけどあたしもここまでとは思っていなかったわあ‥‥まずいわねえ。ここのドームもお世話ロボしかいないと思ったもの。設定上ここはショップ的な位置づけだしね」


 「あ、ロボットもいるよ。りりーちゃん、こっちこっち」

 のあが大声で呼ぶと、カチャンカチャンと乾いた金属音がして、こちらに向かってくるのがわかった。


 ほどなくして現れたのは、ほんの数センチほど浮いた状態で移動するロボットだった。脚部分はなく、胴体だけで浮かんでいるようだった。

 顔全体はどら焼きのような形に似ており、目は大きくまん丸いパーツが一つだけあって、両腕はしっかりと五本指になっている。


 「こちらがりりーちゃん。ドーム内のお掃除とか機械のメンテナンスなんかをやってもらってるの」


 「りりーです。ドウモです。ヨウコソいらっしゃいました。これからも、ノアドームをヨロシクね」

 りりーは平たい頭を深々と下げて、再び踵を返し仕事へと戻っていった。


 「りりーちゃんね、いいじゃん、かわいい」

 しとねはにやにやしながら残っていたうどんのお汁を全て飲み干した。


 「うん、本当にSFだね。うわあ、俺かなり感動してるかも」

 久形も目を輝かせながら合わせるようにうどんを食べ切った。


 「りりーには本当に助かってるんだ。私だけじゃこんな広い建物を管理できないもん。お姉ちゃんのおかげね」


 「なるほど、けど、何でのあちゃんをこの世界に?」

 しとねはまじまじとのあの顔を見ながら訊いた。


 「それは、もちろん私のためでもあるし、お姉ちゃん自身のためでもあるんじゃないのかな。私は誰かに襲われちゃったみたいなの。でもその時の記憶が全然なくて。今でも実体はないもののこれまでの記憶は鮮明にあるから余計に信じられなくて。ごそっとその記憶だけが抜け落ちちゃってる感じなの。だからそんな私の記憶と体を元に戻したいんだと思うな。で、記憶が戻ったら犯人をぼこぼこにしてやりたいんだと思う。あとは‥‥お姉ちゃんも寂しいんじゃないかなって。妹の私が言うのもなんだけど。私たちって幼い頃から親が死んじゃってて。いつも家族っていうものが恋しかったから。けど私とお姉ちゃんが一緒にいればそれだけで良かったっていうか、安心できたっていうか、ね」


 「そうなんだ、苦労してきたんだね。にしても、その襲った奴、私も許せないね。ぼっこぼこのばっこばこにしてやりたいわ。ぷんぷん丸が収まらないわ、うん」

 しとねは両脇を締めながら体を激しく震わせた。


 「あはは、ありがと。そうだね、許せないよね。‥‥お姉ちゃんって、本当はあんなに怖い人じゃないんだよ?のほほんとしてて、穏やかで、お酒が好きで、呆けた感じでどこ見ているかわかんないような人なんだから。そういう素敵なお姉ちゃんを奪った奴でもあるんだからね、そいつは。うん、私も許さない」


 「うん、だよね。けど、お姉さんがエリアを狙う理由ってのはその犯人がらみなのかな?」


 「うーん、それもあるかもだけど。さっきも言ったように私の意識を元に戻すことなんだと思う。ほら、エリアを全て統治できたら願い事が叶うっていうでしょ。きっとお姉ちゃんはそれに賭けてるんだと思うな」


 「そっか‥‥うん?でもいいの?あなたから見たら私たちは敵でしょ?だったらこうしてお話ししたり、手助けみたいなことしてくれてるけど、いいの?」


 そこで明るかったのあは初めてばつが悪そうな表情をした。けれどもすぐさま笑顔に戻って口を開いた。


 「だよね。私はいつまでもお姉ちゃんの味方であることは揺るぎない事実だよ。でもね、今のお姉ちゃんをそのままにしておいたら駄目だと思うんだ。私のために人格まで破壊してほしくない。まずはお姉ちゃんに幸せになってほしいんだ。私はその次でいいから。私のために人生が狂うなんて、そんなのは私が許さないし!お姉ちゃんが人殺しになるなんてことになったら、私だって共犯者みたいなものでしょ?そんなことも許さないんだから。‥‥だからね、止めてほしいんだ、お姉ちゃんを」


 のあは手を合わせて頭を下げた。


 「ううう、ええ妹さんや~」

 しとねは薄らと涙を流しながらハンドタオルで目元を拭った。

 

 久形も眼鏡を外して指先で目頭を押さえて何度も頷いた。


 「‥‥でも、ゆあちゃんを止めちゃったら、のあちゃんが助からないよ?それでもいいの?‥‥あ、いいこと思いつちゃった!そうだよ、私がエリアを全部制覇しちゃえばいいんだ。そうすればそのお願いごともらえるんでしょ?で、のあちゃんを元通りに戻してってお願いすればいいじゃん!」


 「ええ?それはでもさすがに申し訳ないっていうか。しとねちゃんだっけ。しとねちゃんに何のメリットもないけど」

 のあは恐縮した面持ちで何度も首を横に振った。


 「うーん、あるといえばあるよ。ほら、のあちゃんが意識戻ったら、現実世界で美味しいうどんが食べられるし。それに、どうせエリアマスターである以上、誰からか狙われるリスクがあるわけだし。それなら全部勝ち取ったらいいんじゃないかって今思ったわ。そうすれば晴れて自由の身じゃん!この嘘つき兎からも解放されるしね!」


 「ま、大変失礼だこと!‥‥けど、ようやくやる気が出たみたいだし。許してあげるわ」


 「けっ、プモのためには絶対に動かないんだからね!いーだ」


 「‥‥ありがとう、しとねちゃん。へへ、なんか久々に良いことあった。本当にありがとう。けど無理だけはしないで」


 「うん、もちろんよ、死にたくはないからね。ふふ」


 久形はその時思った。

 あれ、この流れだと俺もエリアを狙っていくってことなのか?と。


 「さてと、話がまとまったところで悪いんだけどぉ、取り囲まれちゃってるわねえ、すっかり」


 「あ、もう?くぁあ~さすがお姉ちゃん、もう」


 のあは慌ててドームの壁に手のひらを合わせた。すると内壁が淡い光を帯び、次の瞬間には金属面が透明ガラスのようになり変わり、くっきりと外観を確認することができるようになった。


 「うわ、すご!けど、これって外からも丸見え?」


 久形は少し不安げに訊いたが、のあは「大丈夫、マジックミラーになってるから」と答えたので、すっと胸を撫で下ろした。


 「来たわねえ、ヒコツエリアのダービットたちが」


 プモが言ったことはしとねにはすぐにわかった。


 《ああ、あいつらね~わかるわあ、あの気持ち悪いほど左右の大きさが全然違う赤目玉》


 ドームの周りをダービットたちが覗き込むようにして囲んでいた。

 ただサキヤミエリアで遭遇した一角兎のようなフォルムではなく、人間の形に近かった。ただし顔部分を除いてだ。


 顔は丸く、異様な目玉以外は仮面のようなもので覆い隠されている。そして一角兎と同様に顔の輪郭から切れ味鋭そうな前歯が軒を連ねるように生えていた。

 しかしながら兎のシンボルともいえる長い耳がどこにも見当たらなかったので、しとねは呟くように「あれ、耳がないよね」と言ったが、プモは間髪入れずに「よく見てみなさいよぉ、後頭部に耳が貼りついてるでしょ」と指摘した。


 確かにプモの言うとおり、よく見てみると頭の先から細長い耳が生えており、それが後頭部にそのまま折り畳んだような形でぺたんと貼りついていた。


 「本当だ。けどやっぱり気持ち悪い!人型の兎さん?変でしょ、どう見ても。しかもなんか動きがくねくねしてて、生理的に受けつけないわ」


 「あたしも同感よぉ、気持ち悪いったらありゃしない。人型のダービットを《メトラー》っていうの。あいつらは厄介な技を使うから気をつけてよぉ。簡単に説明すると催眠ね」


 「え、何か嫌だなあ。眠らされる攻撃ってめちゃ強いよ。ゲームでもいっつも悩まされるやつだよね」

 久形はそう言って思わず唸ってしまった。


 「そうなのよぉ。あの変則的な動きにも注意ね」


 「うわあ、何あの変な動き。うーん、パントマイムみたいな感じかも」


 メトラーたちは両手を閉じたり開いたりしながらドームの外壁をぺたぺたと触っていた。両手には皮の紫色がかった手袋をしている。


 「っていうことでえ、あいつらをやっつけないと先に進めないわけね。けどメトラーはかなりの強敵よぉ。今のしとねちゃんや久形さんだと負けちゃうかも」


 「え!プモ今更そんなこと言う?うわあ、もうやる気なくしちゃったわ、私」


 「まあまあそう慌てなさんなってえ。ヒコツエリア攻略のキーアイテムを渡してあげるわよ。のあちゃん、今日の朝に荷物が届いてない?」


 「え、あの荷物、そちらのだったのね。てっきりお姉ちゃんが送ってきたんだとばかり思ってた。ちょっと待ってね」

 のあは駆け足で食堂の奥へと向かい、ややあって薄めのケースを持って帰ってきた。


 「よいしょっと、プモちゃんのだったのね。はいどうぞ」


 「ありがとねえ、のあちゃん。さてと、早速開けるわよぉ、えいや」


 ケースにプモがタッチすると、ドームの入り口と同じような仕組みで青く輝きながら自動で開いた。そして中に入っていたものは小さいサイズのふわふわしたリュックサック二つだった。ショルダーストラップの部分はまさに兎の耳のような形をしている。


 「何これ」

 しとねは首を傾げて「ピクニックにでも行くのかい」と訊いてみた。


 「違うわよ!これがキーアイテムなの!名前は《ダビコス》っていうのよ」


 「ダビコス?」


 「そ、《ダビィコスチューム》、略してダビコスね。これを着れば百人力よぉ」


 「いや、着るってあんた。これリュックでしょ?」


 「いいの!ほら二人ともさっさと背負うの!」


 プモに促されるまましとねと久形は渋々リュックサックを背負うのだった。

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