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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
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Q25 オニナイフやろう

 任せたって言われてもねえ‥‥。


 料理とかなら任せなさいと胸を張れるのになあ。

 というか、プモの奴、あんなこと言いながら自分でやっつけられるんじゃない?

 風を自由自在に操れるんだし。お茶の子さいさいでしょ、あれなら。


 だから私はここでアイスティーでも飲んでさ、寝転がりたいわけよ。

 我が飼い猫、もろみも一緒に。

 あ~あ、喉が乾いちゃったなあ。

 あ、おまんじゅうも食べたいわ。



 「こぅらあ!目を閉じてエロいこと考えるような暇ないわよぉ!」

 プモは恍惚な表情を浮かべるしとねに喝を入れた。


 「ま、なんて破廉恥な。私がこんな状況下でそんなこと考えるわけ‥‥ないことはないか。よくおわかりで。はあ、ねえプモ、どうしたらいいのよ~」


 「感じるのよぉ、あなたのQubを」


 「だから、それがわかんないんだって!もっと丁寧に教えなさい」


 「もう、いまどきのコは駄目ねえ。もっと感じないとぉ‥‥おっと、危ない」


 プモが発動させていたつむじ風を里崎さとざきの飛びナイフが全てかき消し、プモの首元まで迫ってきたが寸前のところでかわした。


 「ふう、ながら運転は危ないわね、やっぱり。いいこと、見ての通りあたしには余裕がないの。早く《力の解放》をお願いねえ」

 

 しとねはプモを睨みつけて肩をすくめた。


 「お願いばかりする大人もどうかと思いますけどね」


 「ごたごた言わないの!Qubにもっと力を込めるのよぉ」


 「ざっくりで雑!」

 

 「なるほどなあ」と里崎はプモの風を破り、やや距離を取ったところで右肩を何回か回して言った。


 「まだその女は《β(ベータ)版》を使えないのか。そりゃ良かった。それにこの木枯らし兎もどうやら使えないようだしなあ。お前こそさっさとあきらめたらどうだ?」


 「ふんだ、水を得た魚みたいな顔したって、あなたの冴えない表情じゃいつまでたっても幸福は訪れないわよぉ。それに、あたしをあんまり舐めてると足すくわれるわよぉ」


 「ああ?」

 里崎の機嫌が再び悪化したが、プモは無視して風のQubを自分の体にまとわせ始めた。


 「《巻きつき》を状態化させたあたしの風が木枯らしかどうか一度ご賞味あれ」


 その瞬間からプモの動きが格段に変わった。


 両腕、両脚に風の渦が巻きついた兎はまさに全速力で草原を蹴っては駆け抜ける野生の兎と化した。

 

 いや、瞬間的な素早さはチーターにも劣らないかもと、しとねは昔テレビで観た「サバンナの弱肉強食」というドキュメンタリー番組を思い出し、チーターが獲物を狩る時のダッシュ力とプモの動きを重ねていた。


 目で追うとしだいに対応力が遅れてしまうほど、プモはフェイントを織り交ぜたような横と縦の動き(ショートステップ)を巧みに使い分け、里崎の動体視力を置き去りにした。


 そしてすかさず短い手足でパンチとキックを数発、里崎の顔面と腹に叩き込んだ。

 風の力が加わっている分、対象にめり込む威力もケタ違いに上がっていた。


 見事にオールヒットされた里崎は背中からダウンした。

 が、すぐさま立ち上がり、地面に唾を吐いた。


 「スピードは大したもんだ。けど、軽いよ。そんなんじゃ俺をノックダウンできないね」


 「ふうん、まあそんな強がり言ってられなくなるほど殴り続けてやるわ」


 「強がりじゃないさ。お前の攻撃はこれで打ち止めだ」



 Qubには段階が存在する。


 垂水寝たるみねしとねやプモが今使っているものは《α(アルファ)版》で、最もベーシックなレベルのものになり、使用者に対しても負担が少ない。しかし次の段階に引き上げられると一気に負担が大きくなるのだが、それと引き換えに威力の次元が一つ変わる。

 

 Qubを知るものはそれを《β版》と呼んでいる。



 里崎清春さとざききよはるは慣れた手つきでQubを象る。

 ついで立方体の縁に左の人差し指を引っかけるようそっと置いた。

 

 その形はアルファベットの大文字「Q]に見える。


 里崎はそのまま意識を集中させ、《物質》のイメージを最大限に高め、指先へ集中させる。


 やがて溢れんばかりの物質イメージが里崎の指先に集まった。


 「見せてやるよ、β版の力を」


 縁に引っかけていた左の人差し指で、象っていた立方体を引っこ抜くかのように、里崎は思いっ切り地面に向かって指を叩きつけた。


 「Q」の形が崩れ落ちる。


 そして黒く禍々しい霧が里崎を包み込む。

 その中から現れたのはぼんやりと輝く五体の鬼だった。


 鬼は里崎が使っていたナイフの色と同じく、青・赤・緑・黄・黒の五色に分かれていた。


 しとねは思わず叫んだ。

 「桃鉄じゃん!しかも、結構可愛いかも」

 

 確かに鬼の形相とは少しかけ離れたコミカルな印象を受けるいでたちで、これぞ鬼キャラという、もじゃもじゃとした髪に二本の角、口には目立つ牙が生えており、腰布を身につけている。

 手には全員仲良く同じ金棒を握っていた。


 「これが、俺の本気だ」

 そう言う里崎の目は大きく見開いて、まるでダービットのように真っ赤になっていた。


 「まずい‥‥しとねちゃん、伏せて!」

 プモは叫んで、しとねの方へ急ぎ向かった。


 「え、伏せる?」


 「早く!」


 「もう遅い」

 里崎の後ろに直立する鬼たちの眼光が鈍く光ると、五色のナイフが数え切れないほどの量で宙に現れた。


 「くたばれ。‥‥《千本オニナイフ》」


 その名に相応しいほどのナイフの雨がしとねに襲いかかった。


 しとねは思った。

 こりゃ終わったわ、と。

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