Q24 クズナイフやろう
「‥‥へ、殺人?」
しとねは魂を掴まれたようにきょとんとしてプモを見やった。
非日常な時間に侵食され続けていたしとねにとっては、現実的なワードは逆に新鮮で、すっと頭の中には入ってこなかった。
プモは続ける。
「最近、崎邪見温泉街の郊外で死体が発見されたのよぉ。公にはなっていないけどねえ。警察が現場検証していたから間違いないわ。あたし自身も見たし、その死体」
「え、一緒に現場検証してたの?」
しとねはそこでようやく現実性を取り戻した。
「タニーの姿で眺めていただけよぉ。あの姿が見えるのはしとねちゃんみたいな、特別な人間しかできないことだからねえ」
「うげ、あの姿で‥‥死体を?やっぱりド変態だ」
「はいはい失礼ワードいただきました。それは置いといて‥‥で、死体だけど、死因は刺殺だったみたい。しかも刺された箇所は全身だって話。ただ、問題はそこじゃなくて、どう刺されたかというところよねえ」
「ねえ、プモ。あなたは探偵なんですか?」
「そんなんじゃないわよぉ。いい?死体はねえ、体の内側から刺されてたの。内側から刃物で刺すなんて芸当、普通はできないでしょ?ミニマムサイズになって体内に侵入でもしないとねえ。けど、一人だけそれができる人間が存在することをあたしたちはもう知ってるわけ。残念だけど里崎さんだっけ、あなたが崎邪見温泉で起こっている殺人事件の犯人ってことになるわけ。そうなんでしょ?」
里崎は黙ったまま微動だにしなかったが、ややあって小さく頷いた。
「でしょうねえ。あなたしかできないことだし。ってことはだ、あなたはルール上やってはいけないことをしたのよ、わかってるの?それ」
プモの声が初めて荒々しくなったので、しとねは少し不安になった。
里崎はにやりと笑った。
「おいおい、子どもみたいなことを言うなよ。こんな非常識な世界、まず誰が信じるんだ?俺が仮にこの能力で殺人を犯したとして、それをどう証明する?どう俺は裁かれる?そんなことは想像しなくともわかるだろうが、不可能だってことがな。だから、俺が犯人として警察に捕まるなんてことはありえないんだよ」
「うわあ、つくづくクズな奴ねえ。あのね、警察なんてどうでもいいのよぉ。あなたがしでかしたことはこのダビィでのご法度のこと。Qubの力は基本的には表の世界では使えない。けどね、殺害された人間にはQubが使われている。これはねえ、あなたが被害者をこの世界に連れてきて殺したっていう証拠でもあるの。ダビィに入れるのは適性があるかどうか。それがない人間は自力じゃここには来ることができないの。ただ、適性がある人間と一緒になら入ることができるのよね。だからこそ、無理やり適正のない人間を連れていくのは規定違反なのよぉ。危険だしねえ。さらにはその人間に危害を加えようものなら‥‥ダビィからの永久追放、もしくは存在の消去‥‥」
「くっくっく、長い話しやがって。なあ、それって誰目線でほざいてやがるんだ?お前がこの世界の警察とでも言いたそうな顔だな。俺を裁ける奴なんていないんだよ。ルールなんて抜け道があるだけでそのシステムは破綻してるってことだ。俺は何も悪くないし、ましてや犯罪者でもないんだよ」
「救えないクズナイフやろうね。いいわ。じゃ、あたしと、このしとねちゃんがあなたを裁いてやるんで。そうそう、あたしも一応ね、役目があるのよぉ。《監視者》だからねえ。あなたがやっていることは絶対に看過できないの。表と裏の境界線が無くなってしまうから。わかる?それこそ破綻よ」
「‥‥監視者だと?」
さっきまでの余裕が里崎の表情から消えたのを見計らって、プモは風のQubをすかさず発動させ、里崎の周りを囲むように分厚いつむじ風を起こした。
「しとねちゃん、あたしが足止めできているうちに頼むわよ~」
しとねに手を振るプモは里崎に向かって駆け出した。
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一方で久形はほっぺをつねっていた。
痛い。
もう一度つねる。
もっと痛い。
額から角が生えた兎のような生き物が三体地面に倒れていた。
息はなく、死んでいるように見える。
よく見ると顔の輪郭の周りに歯のようなものがたくさん生えており、左右の目の大きさは異常過ぎるほど不揃いだ。そして目を背けたくなるほど充血している。
驚いている間もなく、久形はさらに飛び跳ねた。
モンシェールクレアの中から激しい轟音や金属音が聞こえてきたからだった。




