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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
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Q23 ナイフやろう

 「プモさんよぉ、ちょいと一つ尋ねていいかい?」


 「あら、えらく余裕じゃない。安心したわ」


 「余裕じゃねーわ!‥‥ふう、あのね、もしここで私がやられちゃったらどうなるのかなっと疑問になったわけよ」


 「なるほどねぇ、良い質問だけど、しとねちゃんにしては後ろ向きねえ。ま、いいわ。やられちゃうと、そりゃ死んじゃうわよねえ」


 「やっぱし!がく‥‥」

 しとねは観念したように下を向いた。


 「あ、でもこのダビィの世界だと魂は生き続ける形にはなるか。で、向こうの世界じゃ死体として移される。魂はこの世界をさまよって、例えば住民や動物として再び活動を続けることもあるかもしれない。まあそれはエリアマスターが決めることだけどねえ」


 「この世界で永遠にさまよい続けるの?うわあ、絶対嫌だ!」


 「なら、勝つしかないわねえ」


 「さっきから何ごちゃごちゃ言ってるんだ?お前、今の状況わかってるのか?ふん、まあ何も抵抗せず死んでくれたら俺はそれで万々歳だしな。さっさと死ねや」

 そう言うと、男は右手でさっきから象っている立方体をしとねのほうに向けた。


 鳴り響く不協和音にも似た金属音が耳をつんざくほど大きくなり、倉庫内を一気に騒がしくさせた。


 すると男の右手から手品のようにナイフが五本飛び出した。

 そのナイフは各々が違う色の光をぼんやりと帯びながら、切っ先をしとねに向けて宙に浮かんでいた。


 光の色は青・赤・黄・緑・黒に分かれていた。


 しとねは思う。

 《ゴレンジャイみたい‥‥ピンクはないけど》


 ‥‥いやいやそんなあほなこと考えている場合じゃないよね。


 どうしよう、どうすれば、あのナイフ、どうなるのよ。

 まさか五本とも握りしめてこっちに突撃してくるとか?

 あるいは投げてくるとか?


 しとねがあれこれ答えが永遠と出ないことに思考を巡らしていると、男は容赦なく彼女の想像を超える一手を放った。


 今は絶滅危惧種にも認定されそうなほど少なくなったワインドアップ、まるで往年の大投手のようなフォームで男は《Qub》を象った右手を頭の上に振りかぶり、そのまま反動をつけて振り下ろした。


 「なかなか良い投げっぷりじゃない」とプモは称賛して手を叩いた。

 それとシンクロするかのように、浮遊していたナイフが一斉にしとねめがけて一直線に飛び散ったのだった。


 ぐわああああ。

 詰んだとはこのことよね。

 無理だ、避けられない。投了でえす。

 

 さよなら私。

 さよなら、もろみ――。


 しとねが諦めて目を閉じたその時だった、プモのあからさまにわかるため息と風が一気に巻き起こる凄まじい音がした。


 しとねの前に《風の壁》が突如として現れ、四本のナイフを弾き飛ばした。残り一本の黒いナイフは壁に刺さったままになった。


 「今回は特別だからね。あたしができる限り守ってあげるから。でもぉ、あいつのQubは結構強力だからねえ。《物質》のQubみたいだけど。あたしの壁がいつまでもつかだけどぉ。風のQubに《固形》と《感知》を状態化させたから、ナイフが飛んできても自動的に風の壁があなたを守ってくれるわよぉ。ただ耐久性がねえ。あいつが本気を出す前にやっつけないと。しとねちゃん、頼むわよぉ」


 「プモ~ありがとう~って言いたいけど、それって結局私に丸投げな感じじゃん!もう、どうしたらいいのよ。というか、そこのあんた!何で私にナイフ投げるの!私何にも悪いことしてないのに‥‥ひどくない?失礼極まりないし。それに、お互い名前すら知らないのにね。そうだ、そうよ。まずは名乗りなさい!」


 「ああ?なんだこの女は。置かれている立場、状況理解してんのか?急にやけくそ気味になりやがって、はは、まあいいか。せっかくここまで来たんだからなあ。初めてだよ、俺のところまで来たやつは。俺は里崎っていうもんだ。ここ、サキヤミ地区のエリアマスターでもある」


 里崎と名乗った男は長い髪を一度かき上げて続ける。


 「で、お前の殺す理由だったな。簡単だよ、俺の地位を守るためだ。俺を脅かす力がお前にはあると睨んでいた。で、俺の悪い予感はやっぱり当たったわけだ。お前はダービットたちを退けてここまで辿り着いたんだからなあ。しかも強化版の奴らも倒しちまったし。まあお前はほとんどわけがわからないままここまで連れてこられたようだが‥‥そのダービットに」


 里崎は視線をプモに向けた。

 プモはすかさず肩をすくめる。


 「大変失礼な男ねえ。あんな化け物と一緒にしないでもらいたいわね!あたしは生粋の兎ちゃんなんだからね」


 「兎ちゃんねえ‥‥はっ、じゃあ聞くが。たかが兎がどうして《ダビィ》端末機を持ってるんだ?お前こそ、何者だ?」


 里崎の眼光がより病的に鋭く光ったようにしとねは感じた。

 だがプモはどこ吹く風で気楽そうにけらけらと笑った。


 「さあねえ、それは内緒。それよりあなた、逆にもう観念したら?こちらには期待のソープ嬢‥‥じゃなかった、期待のホープ譲、しとねちゃんがいるんだからぁ。本気出したらあんたなんてひとひねりよぉ?だってねえ、あたしの風ですら貫けないんだしぃ」


 「こ、こらこら。プモ、何煽ってるのよぉ。しかも私の素性がわかるようなこと言わないでくれる?プライバシーの侵害だ。ううん、それよりも挑発なんかしたら余計やばいじゃん」

 しとねはひそひそとプモに注意したが、プモは全くもって取りつく島もなかった。


 「どうせあいつをやっつけないとあなたは助からないの。それに腹立たない?あんなひどい奴に殺されるのが!怒りを力に変えるのよ」


 「はあ、けど、どうやれば‥‥」


 「くっくっく」と里崎は笑いを不気味に押し殺して、しとねとプモの会話を遮った。


 「おいおい、本気で言ってるのか?俺はここの統治者だぞ?何が突き破れないって?よく見てみろよ」


 プモははっとなって風の壁に刺さっていたナイフを見やった。


 黒いナイフはいつのまにかゆっくりと壁の奥へと刺さり、侵入を成功させていた。

 そしてそれは無理やり内側から外側へ切っ先の《向き》を変えた。


 「しまった」

 プモが顔をしかめると、《向き》を変えたナイフが怪しく黒光りし、内部から外へ強引に吐き出されるようにナイフが壁の内側を突き破った。


 プモが作った風の壁が消え去ってしまった。


 「というわけだ。俺の黒ナイフはいくら硬くても標的に当たれば内部まで侵入して貫通する。んで、そいつは内部から相手を刺殺せるって論法だ。だから当たった時点で負けなんだよ」


 「ふーん、《貫通》と《方向転換》を状態化させてるわけね。厄介だわね‥‥にしてもぺらぺら喋るわねえ。モテないでしょあなた。ふんだ、潰されても別に次の壁を作ればいいだけだしねえ」


 「そうかい、まあそれがいつまで続くかだけどなあ。俺はナイフを投げ続けるだけだ、くっくっく」


 「やっぱりモテないわよあんた。やーな性格。けど、これではっきりしたわねえ。あなたよね、あっちの世界で起こっている殺人事件の犯人は」

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