Q21 ダービット②
ぎょえええええ。
心の中ではずっと叫びっ放しだったしとねは空腹が頂点に達し、喉の渇きも同様に口の中が乾燥MAXになっていた。
こういうのが絶食四日目くらいな感じなんでしょうか‥‥。
ゴリゴリマッチョな兎ことダービットという化け物たちは、容赦なくしとねに金棒を振り降ろしては、地面に小さな穴を掘っていく。
なんてことをするんだ!
モンシェールクレアの景観を破壊するなんて!
黒服たちが怒っちゃうぞ、あそこのお店、特にみんな怖いんだからね!
ギイィィーっという声がするたびに、しとねはダービットたちの攻撃を避けていった。パワーはあるがスピードは道中に出会った奴らのほうがあったし、加えて声を頼りにすると相手の行動を先読みしやすかった。
だが一度でも金棒に当たれば即ゲームオーバーだと思うと、しだいにしとねの動きもだんだん鈍くなってきた。
やばいよぉ。早く倒さないと‥‥でも。
さっきから水のQubで《しなり》を状態化させた水の鞭で何度も攻撃しているが、全く効いている感じはしなかった。
まさにノーダメージな感じ。
「あかんわあ、これ。私、もうあかんかもです」
しとねは頭に手を当てて、テヘっと舌を出した。
「そんなんやってる場合じゃないでしょうに。ほらぁあたし言ってたでしょ、あなたのはまだ子どもの水遊びだって。水の勢いだけじゃ倒せないわよぉ、あいつらの防御力を突き破らないと」
「そんなこと言ってないで助けてよ~。どうしたらいいのこれ!」
「もう甘えたちゃんねえ。いい?柔らかいの、あなたの水は。硬くないとねえ」
「硬くかあ、確かに‥‥柔らかいよりは断然硬いほうがいいよね‥‥むふむふ‥‥」
「こらあ、涎垂れ流している場合でもないでしょうに!」
「‥‥はっ!いかんいかん、私としたとが。硬くするのね、よおし」
しとねはダービットと距離を取り、もう一度Qubの形を作って水のイメージを再構築した。
硬くなあれ、硬くなあれ。
思わず吹き出しそうになったが、かろうじて踏み止まり、水に意識を集中させる。
立方体の中で渦巻く水の動きがしだいに緩やかになり、次の瞬間には波風一つ立たない、まさに固まった水の立方体になった。
氷ではない、ちゃんと水のまま固まっている感覚がしとねの指先にあった。
それを維持しながら水はどんどん伸びていき、棒状に変化した。
「おお、こりゃいいかも。よおし、さらにこれをこうすると‥‥」
水に《硬直》を状態化させ、水の棒になったものをくるくると回していく。
するとあら不思議、棒が大きなハンマーに変化した。
「よっしゃあ、これでもくらえぇ!」
しとねはできあがった水ハンマーを回転させながらダービットたちめがけて放り投げた。
回転量とハンマーの重さも加わった水の塊は次々と三匹に命中していき、ダービットたちはモンシェールクレアの壁面に激突し、そのまま息絶えた。
「ほお、やるじゃない。いいねえ、ちょっとばかしか、Qubのコツがわかったんじゃない?」
プモは口笛を吹いて軽く拍手した。
「あちゃ~お店の壁、壊しちゃったよぉ」
「大丈夫よぉ、ここは裏の世界。あっちじゃ無傷なんだから」
「そっか。じゃあいいや。ふう、やっつけられたけどお、もう、私、限界ですけどね」
しとねはその場にへたり込んで、三角座りに顔を埋めた。
「ま、よく頑張ったわ。ご褒美あげるわよぉ。これでも食べなさい」
プモはどこに持っていたのかわからないが、しとねに白いまん丸な、ぽこぽことした耳みたいなものがついたぷにぷにを差し出した。
「何これ」
「うさぎまんじゅう、通称よ」
「おまんじゅうかあ、どらどら‥‥うわあ、全然味しないんだけど‥‥え、でもなになに、お腹がふくれてきたんだけど!」
「それは空腹時に一瞬でお腹を満たしちゃうものなのよぉ。あなたにはぴったりな食べ物でしょ?」
「うーん、でも、お腹だけ満たされちゃうって、なんかある意味嫌よね‥‥期待してたお店に入って、美味しくなくて、量だけ多くてお腹だけふくれちゃうの、損した気分にならない?」
「贅沢言わないのぉ。さ、いよいよね。入るわよぉ、あの男がいるところに」
「はあ、私の安寧の地はいずこへ‥‥」
そしてしとねたちは裏モンシェールクレアの中へ入っていった。
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その頃、久形柊斗の頭の中には同じ言葉を続ける声がこだましていた。
その声は女性で、穏やかで優しく、ほっとできるような魅力があった。
《あなたは求めますか、力の解放を》
暗闇と光のはざまの中にいるような不思議な感覚だった。
久方が目を覚ますと、まず目に飛び込んできたものは通い慣れたモンシェールクレアがある歓楽街の入り口だった。
あれ、俺は確か‥‥あめさんを追いかけていて、あの路地裏で‥‥。
そうだ、あの妙なゲーム機のようなものを拾ったんだ。
で、指先で画面をタッチしたら――。
光に包まれて意識を失ったんだ。
久形は足元に転がっているそのゲーム機に気づき、しばし目を離せなくなった。
ぶっちゃけ頭の整理が追いつかなかったのだ。




