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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
22/80

Q21 ダービット②

 ぎょえええええ。


 心の中ではずっと叫びっ放しだったしとねは空腹が頂点に達し、喉の渇きも同様に口の中が乾燥MAXになっていた。


 こういうのが絶食四日目くらいな感じなんでしょうか‥‥。


 ゴリゴリマッチョな兎ことダービットという化け物たちは、容赦なくしとねに金棒を振り降ろしては、地面に小さな穴を掘っていく。


 なんてことをするんだ!

 モンシェールクレアの景観を破壊するなんて!

 黒服たちが怒っちゃうぞ、あそこのお店、特にみんな怖いんだからね!


 ギイィィーっという声がするたびに、しとねはダービットたちの攻撃を避けていった。パワーはあるがスピードは道中に出会った奴らのほうがあったし、加えて声を頼りにすると相手の行動を先読みしやすかった。


 だが一度でも金棒に当たれば即ゲームオーバーだと思うと、しだいにしとねの動きもだんだん鈍くなってきた。


 やばいよぉ。早く倒さないと‥‥でも。


 さっきから水のQubで《しなり》を状態化させた水の鞭で何度も攻撃しているが、全く効いている感じはしなかった。

 まさにノーダメージな感じ。

 

 「あかんわあ、これ。私、もうあかんかもです」

 しとねは頭に手を当てて、テヘっと舌を出した。


 「そんなんやってる場合じゃないでしょうに。ほらぁあたし言ってたでしょ、あなたのはまだ子どもの水遊びだって。水の勢いだけじゃ倒せないわよぉ、あいつらの防御力を突き破らないと」


 「そんなこと言ってないで助けてよ~。どうしたらいいのこれ!」


 「もう甘えたちゃんねえ。いい?柔らかいの、あなたの水は。硬くないとねえ」


 「硬くかあ、確かに‥‥柔らかいよりは断然硬いほうがいいよね‥‥むふむふ‥‥」


 「こらあ、涎垂れ流している場合でもないでしょうに!」


 「‥‥はっ!いかんいかん、私としたとが。硬くするのね、よおし」


 しとねはダービットと距離を取り、もう一度Qubの形を作って水のイメージを再構築した。


 硬くなあれ、硬くなあれ。


 思わず吹き出しそうになったが、かろうじて踏み止まり、水に意識を集中させる。

 

 立方体の中で渦巻く水の動きがしだいに緩やかになり、次の瞬間には波風一つ立たない、まさに固まった水の立方体になった。


 氷ではない、ちゃんと水のまま固まっている感覚がしとねの指先にあった。

 それを維持しながら水はどんどん伸びていき、棒状に変化した。


 「おお、こりゃいいかも。よおし、さらにこれをこうすると‥‥」


 水に《硬直》を状態化させ、水の棒になったものをくるくると回していく。

 するとあら不思議、棒が大きなハンマーに変化した。


 「よっしゃあ、これでもくらえぇ!」


 しとねはできあがった水ハンマーを回転させながらダービットたちめがけて放り投げた。


 回転量とハンマーの重さも加わった水の塊は次々と三匹に命中していき、ダービットたちはモンシェールクレアの壁面に激突し、そのまま息絶えた。


 「ほお、やるじゃない。いいねえ、ちょっとばかしか、Qubのコツがわかったんじゃない?」

 プモは口笛を吹いて軽く拍手した。


 「あちゃ~お店の壁、壊しちゃったよぉ」


 「大丈夫よぉ、ここは裏の世界。あっちじゃ無傷なんだから」


 「そっか。じゃあいいや。ふう、やっつけられたけどお、もう、私、限界ですけどね」

 しとねはその場にへたり込んで、三角座りに顔を埋めた。


 「ま、よく頑張ったわ。ご褒美あげるわよぉ。これでも食べなさい」


 プモはどこに持っていたのかわからないが、しとねに白いまん丸な、ぽこぽことした耳みたいなものがついたぷにぷにを差し出した。


 「何これ」


 「うさぎまんじゅう、通称かぐやんよ」


 「おまんじゅうかあ、どらどら‥‥うわあ、全然味しないんだけど‥‥え、でもなになに、お腹がふくれてきたんだけど!」


 「それは空腹時に一瞬でお腹を満たしちゃうものなのよぉ。あなたにはぴったりな食べ物でしょ?」


 「うーん、でも、お腹だけ満たされちゃうって、なんかある意味嫌よね‥‥期待してたお店に入って、美味しくなくて、量だけ多くてお腹だけふくれちゃうの、損した気分にならない?」


 「贅沢言わないのぉ。さ、いよいよね。入るわよぉ、あの男がいるところに」


 「はあ、私の安寧の地はいずこへ‥‥」


 そしてしとねたちは裏モンシェールクレアの中へ入っていった。


 *******************************

 その頃、久形柊斗くがたしゅうとの頭の中には同じ言葉を続ける声がこだましていた。


 その声は女性で、穏やかで優しく、ほっとできるような魅力があった。


 《あなたは求めますか、力の解放を》


 暗闇と光のはざまの中にいるような不思議な感覚だった。



 久方が目を覚ますと、まず目に飛び込んできたものは通い慣れたモンシェールクレアがある歓楽街の入り口だった。

 

 あれ、俺は確か‥‥あめさんを追いかけていて、あの路地裏で‥‥。

 そうだ、あの妙なゲーム機のようなものを拾ったんだ。

 で、指先で画面をタッチしたら――。


 光に包まれて意識を失ったんだ。

 久形は足元に転がっているそのゲーム機に気づき、しばし目を離せなくなった。

 

 ぶっちゃけ頭の整理が追いつかなかったのだ。

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