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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
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Q1 もろみ

 ここはしとねが愛車でよく立ち寄る市場。

 

 午前五時から入場できて、朝一に来れば様々な業者が入り乱れて、買い出しに来る魚屋やプロの料理人に話を聞けたりできる。

 あとは早朝のセリを見学できたり、新鮮なイチオシ水産物に出会える可能性が高くなる。


 この時間帯はやはりプロの買い出し人たちの取引などで活発になり、しとねはその場で働いている人たちの息づかいが聞こえてくるのが妙に心地良かった。


 市場の中央辺りに来れば、朝からラーメンが食べられるカウンターだけのお店がある。そこで五十年以上店を守り続けているおやっさんに、しとねは軽く会釈をして通り過ぎる。


 いわゆる朝ラーを食べたかったが、今日は家に帰って料理の仕込みがあったから断念した。

 「あっさり塩ラーメン、うう、食べたかったわ」と後ろ髪を引かれる思いで彼女はお目当ての鮮魚店へ向かった。

 

 まだ夜が明けきらない雰囲気が漂う中、声がガラガラで何言ってるかあんましわかんない、馴染みである魚屋のおやっさんに魚のアラを3キロ勧められたが、しとねは即決快諾して購入した。

 帰り際、別の店で春の味覚であるホタルイカが特価で売っていたが、予算の都合上泣く泣く断念した。

 「しょうが醤油で食べたかったわ」とまたもや後ろ髪を引かれるしとねであった。

 

 家に着けば最愛のもろみが無表情で出迎えてくれる。

 近頃はぼてぼてに太ってしまったので食事を与える際は気をつけているのだが、愛くるしいほどの無表情を見ていると、ついたらふく食べさしてしまうのだ。


 しとねはもろみの顎を撫でた後、さっくりとお風呂に入る。そのあとはアラを見事な腕前で捌き、アラで取った出汁で味噌汁をドサっと作り終える。

 

 彼女は食材を一気に全て使い切ることをモットーにしていた。残った分は数日で食べ終える。

 しとねはできた味噌汁と炊き立てご飯、アラの煮付けまで作って、幸せそうに食べる。

 もろみにも余ったアラの身を差し出す。もろみは無表情を維持したままアラをむさぼる。

 

 

 食事が終わり、しとねは電話をして来週のシフトを連絡した。

 顔はかなりにやけている。


 もろみはそんな彼女をじっと無言で見つめている。

 もろみは滅多に鳴き声を出さないのだ。

 渋くて、かわゆくて、最高なのだよ、もろみは。

 

 一ヶ月にニ回程度しか出勤はできないのだが、出勤当日は全てを出し切り、最高のむふむふに浸ることができる至福の時間。

 

 しとねは思う。

 「絶対やめないんだから」と。

 

 そういえば、とも思う。

 近頃、出勤のたびに会いに来てくれる久形くがたはまた現れるのだろうか、と。

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