Q18 Qub
しとねは我に返って右手で象っていた立方体の形を解いた。
「‥‥ちょっと、これは何事かね。私の手が蛇口のようになってしまったわ‥‥」
しとねの声は震えていた。
「それはね、《Qub=キューブ》っていう力なのよぉ。あっちの世界の人間がこっちに来て使える力。しとねちゃんは《水のQub=キューブ》を使えるみたいね。うーん、ちょっと想像と違ったけど、ま、それも面白い‥‥って聞いてる!?」
しとねは「わーい」とはしゃぎながら水を出しては楽しんでいた。
「はあ。あのね、水を出すのはいいけど、あまり無駄使いはやめておいたほうがいいわよぉ」
「え、何で?」
「ほら、あなたが普段そういう不思議な力を使ってしまうと、めちゃくちゃ体に負担がかかったりしない?」
「げ、そういうこと?」
そう言ってしとねは慌てて蛇口を閉じるように水を出すのをやめた。
「確かに、私がちょっとした火や氷を出したりするとあとがヤバいもんね。どっとお腹が空いちゃう‥‥うん、まだ大丈夫かな」
しとねはお腹をすりすりさせて確かめた。
「‥‥けど、これがあなたが私にお願いしていた《力の解放》ってやつなの?」
「それはまた別なのよぉ。その力は使えてあたりまえ」
「え、そうなの。なーんだ、誰でも使えちゃうんだ」
「違うわよぉ、しとねちゃんなら使えてあたりまえってこと!いい、あなたは表の世界でああいったささやかではあるけど、超能力みたいなものが使えるでしょ?ああいうことができる人間は地球上で滅多にいないんだからね。だからぁ、あなたは特別なの。で、Qubも使えたってわけ」
「ふうん、あんましわかんないなあやっぱし。でも、じゃあ《力の解放》って結局何なの?」
「そうねえ、それはおいおい説明するとして‥‥まずはあれを何とかしないとね~」
そう言うとプモは軽く口笛を吹いた。
「え、うそ」
倒れた兎の元に同じ角が生えた兎が三匹集まってきた。
「さっきの騒ぎで集まってきちゃったようねえ。もう、しとねちゃんのせいよ。もっと静かにシャープにスマートに倒さないから」
「うわあ、腹たっつなあ、この兎め。水まみれにしちゃうぞ」
「ふふん、やれるもんならやってみなさいな。まだあなたには負けないわよねえ。さて、まあとりあえずスタートラインに立ったということで、Qubの使い方を先輩がお手本みせてあげるわ」
ぐぬぬぬ。
しとねはすぐにでもこの偉そうな兎に向かって放水したかったが、無駄使いは禁止だということを思い出し、ぐっと堪えることにした。
またもや耳をつんざく奇声が街に響き渡る。
凶暴な兎たちがこちらに向かって突進してくるのを見て、彼女は身構えた。
「いいしとねちゃん。Qubはねえ、簡単に言えば《属性と状態の組み合わせ》が肝なの。例えばあなたはさっき、無意識のうちにもう使ってたけどねえ、水に《しなり》を加えたでしょ?そうすることによって、水が鞭のようにしなったわけねえ。だから、こんなこともできちゃうのよぉ」
プモはふわっと前に出てしとねと同じく右手で立方体を作った。
まん丸指でも器用に象られた空間から大量の風が巻き起こるのをしとねは目撃した。
プモは不気味に微笑んでいた。
「あたしのQubは風。だけどぉこいつを巻き起こすだけじゃつまらないでしょ?だからねえ、こうして風を無理やり《落下》の状態にさせるのよぉ、ほいさっさ!」
プモはそう言い放つと、指の空間から生まれた激しい風が兎たちの上空に渦を成していった。しだいにそれは風の玉となって兎たちに目がけて急落下した。
見事命中して、兎たちは木端微塵に粉砕されたのだった。
「すご!‥‥というか、めちゃくちゃ風の音うるさかったけど!全然シャープにスマートじゃないじゃない。また寄ってきちゃうよこりゃ」
「‥‥水差すわねえ、せっかく美技を見せてあげたのにぃ。ま、それでこそしとねちゃんね。よし、じゃあこれからはどんどん実戦よぉ。自分の身は自分で守ってねえ。そうじゃないと今から立ち向かうエリアマスターには勝てないから」
「くわああ、このもやもやむかむかをどこにぶつければいいのだろうか、私は‥‥うん?でもそいつってどこにいるのかしら」
「そりゃあ、あそこよ、あなたが所属している場所。モンシェールクレアね」
「‥‥うそでしょ。嫌だ~」
しとねは薄暗い空を仰いだ。
余計に陰鬱な気分になってしまった。




